第12章 第8話 覚悟
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サラとハープンさんの結婚式が、つつがなく行われ、その後の新居への引っ越しも無事完了。俺たちも領主館に引っ越して、新生活がスタートした。
それに合わせて、俺は、『竜の庭』奥地への探索と工事を宣言。ユファイン騎士団は、初めての大掛かりな任務に色めき立った。
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そして、サラとハープンさんの結婚式から10日後、レインがマリアを伴ってユファインに到着した。今回は、気球云々は関係ない。ただ、レインに前々から頼んであったある品が、ようやく手に入ったということで、わざわざ持ってきてもらったのだ。
「ようこそ、レイン!」
俺とレインが握手する横で、マリアとフミが抱き合っていた。
「お話は聞いています。フミさんもお辛い事でしょうね」
マリアは、綺麗な瞳にうっすらと涙を浮かべて、“キッ”と俺を睨む。やはり、ソフィの事が気に食わないらしい。相変わらずレインが“ビクッ”としている。俺も顔を背けるしかない。
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前回は気球の後、3日程ウチの温泉やアクテビティーを楽しんでもらったが、今回は時間もないので、1泊2日。人造湖のコテージとライリュウと一緒に泳ぐ『ドラゴンシュノーケリング』に案内した。
レインは、俺にうまく合わせてくれ、マリアとフミは、すっかりご機嫌の様子。その日の夜は、必殺の打ち上げ花火と仕掛け花火。
そして翌日、俺は無理を言って早朝から、レインにウチの領内を隅々まで“みて”もらった。
「あっという間だったけど、楽しかったよ」
「ロディオ様、素敵な思い出が出来ました」
港で満足そうな2人を見送った後、俺は騎士団本部へ向かった。
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慌ただしく出征準備を整えている騎士団本部に、『アイアンハンマー』の皆さんが顔を出してくれた。元気そうで何よりである。
せっかく、俺たちの事を気遣って、自発的に協力を申し出てくれたのだが、今回は皆さんに、別のお願いをするつもりである。
「実は…………」
「おい、ロディオ……様……まじか……」
絶句する5人。そう。俺が彼らに頼んだのは、異世界調味料の定番、“コショウ”の栽培。元の世界では、同じ重さの金と取引されたこともあるという、禁断の作物である。
この世界でも香辛料の値段は、ばか高い。冷凍設備が整っていないせいか、同じ重さの金までとはいかないが、銀の半分程度の値がすることもあるという。もし成功すれば、ユファインの国力は、一気に高まることだろう。
ユファインをはじめとする、俺の領地は、どこにどの作物を植えるのがいいかは調査済み。その結果、近くに沸く温泉の泉質によって、適した作物が微妙に違うことがわかってきた。
このコショウを含めた複数の香辛料の栽培に一番適している土地はボウモアなのである。俺は5人に頭を下げて重ねてお願いした。
「いいってことよ」
「俺たちを見込んでのご領主直々の頼みなら、光栄だ。なあみんな」
「おうともよ!」
よかった。新しく造る街で農地が整い次第、最初に移住してもらうこととなった。今回は、最初から迷わず本気で領地経営をする。コショウを含めた香辛料の大規模栽培は、俺の覚悟の表れである。
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今回の遠征には、最初から街づくりのための膨大な資材と、山エルフやドワーフ、更には獣人の職人たちを多数連れてきている。ボウモアに到着して基礎工事が出来次第、少しでも早く街造りに取り掛かるためである。
工事は、最初からボアとエリがいるおかげで、進み具合が早い。約50キロの道のりを、足掛け3日で進むことが出来た。記憶をたどりながら、ボウモアまで進み、ここで小休止。街の造成に入る。今回は、1辺10キロ四方の街にした。もちろんこれは、コショウなどの香辛料栽培のための農地を確保するためである。
基礎工事が出来次第、俺たちは騎士団と共にダブルウッド目指して進む。
そしてダブルウッドに到着すると、ここもボウモアと同じ規格で工事を進める。将来、シーバスからの難民を一番に受け入れる場所となるのだ。
前回より多めに、宿泊施設や店舗を造ることにした。そして、開発がおよそできたのを見計らい、俺はフミ、ボア、エリを連れて、トンネル工事へ。
俺たちは、1か月ほど、ダブルウッドでの工事に明け暮れた後、一旦、第2回採用試験のため、ユファインへ帰る。
試験の後は、バランタイン候にあいさつするため、トライベッカを訪れると、ステアと再会することができた。
「どうでしょう、ロディオ殿。ステアは、ご存知の通り甚だ頼りないが、私の唯一の跡継ぎ。グランの例もあるし、ロディオ殿の下で鍛えてはもらえないでしょうか」
願ってもない提案に二つ返事で了承した俺は、ステアを連れて帰ることが出来た。
ダブルウッドではトンネルも無事開通し、俺たちはシーバスへ急ぐ。大量の移民の受け入れと開発とを同時に進めるためだ。
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ハウスホールドでは、ダグから例の件を明かされた。フミもショックを受けていたが、内心では薄々感付いていたようで、気丈に振る舞っていた。フミもまた、自分の運命を受け入れ、覚悟を決めたようだ。
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「ロディオ様……」
王城の控室で、涙をぬぐうフミ。
「フミは、フミは……。弟と再会できた喜びと、自分が今まで嫌っていたエルフだったこと。しかも、私が王族なんて……。もう、どうにかなってしまいそうです」
フミはそのまま、俺にダイブ。俺はいつかの時のように、鳩尾にカウンターをくらったが、フミは俺のボディーをがっちりとホールドして、顔をこすりつけ、泣きながら嗅ぎ続ける。
俺はフミの髪の毛をなでながら、気が済むまで好きにさせることにした。
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