第12章 第7話 婚約者
ご愛読ありがとうございます。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いします。
この世界の貴族、しかも領主の一番の最重要事項として、国や領地を富ませることや善政を敷いたり、強い軍事力を持つことより、大切なことがある。
それは、領主の血をひく跡継ぎを作ること。領地を持つ大貴族は、自分の勢力が大きければ大きいほど、多くの妻を娶ることが望まれる。ちなみにバランタイン侯爵も、男の子はステアだけらしいが、女の子は8人いるそうだ。奥さんも第一夫人から第五夫人までいるという。
ハープンさんや、クラークさんたちは、領地を持っているわけでもないので、一夫一妻でも構わないが、俺の場合、例え自分が望まなくても、ほおっておけば、部下や領民、そして同盟している他国からも望まれてしまう。
どうせ結婚するなら、好きな人とがいい。この世界は政略結婚なんて当たり前らしいが、俺は今回も、フミ、ララノア、ソフィの3人と一緒になりたい。
多少のすったもんだはあったものの、ララノアを第二婚約者とすることができた。フミが認めてくれて、本当によかった。
前の世界では、ぐたぐたしているうちに、なんとなく婚約してしまったんだった。何とも締まらない話で、情けない。
俺は、やり直せるなら、次こそは男らしく振る舞いたかったのだ。
「こ、ここは第一婚約者としてのよ、余裕をみ、見せないといけませんから……」
あまり余裕は無さそうだが、ありがとうフミ。
フミも、どのみち俺が複数の婚約者を持たないといけないことは、理解してくれていて、自分の第一婚約者というポジションに満足してくれている。
執事には、サドルとソフィが来てくれた。
領内では『一の湯』も、オープンしたのだが、今回もお客が殺到したため、『二の湯』のオープンを急ぐ。マリ―たちシスターも無事到着。
ユファインへ入る人を制限することを目的とした入場税は、前回、大人200アール、14歳以下100アールで行ったものの、ほとんど意味がなかった。そこで今回は仕方なく、大人500アール、14歳以下300アールにしたところ、少し落ち着いた気がする。領内の開発をすすめて、一日も早く撤廃したいものである。
領内の直営の飲食店も、『竜の屋』、『湯の花うどん』が次々とオープン。今回は、手間のかかるファーストフードには手を出さず、代わりにしゃぶしゃぶの店を出すことにした。
この世界では、一般的に肉料理と言えば、屋外でのバーベキュー。レストランや家庭で、煮込み料理などはあるが、日本で一般的なしゃぶしゃぶはない。
特に、俺が考えているものは、店内に源泉を造り、そのお湯で直接薄切り肉をしゃぶしゃぶするもの。
これは、たまらん。想像しただけで、食べたくなってきた。ラプトル肉に合う泉質と温度調整が難しそうだが、これが実現すれば大繁盛の予感がする。しかも燃料代いらずのすぐれものである。
店名には悩んだが、肉と言えば、焼くか煮るかしかないこの世界にしゃぶしゃぶという料理を伝えなくてはならない。迷った挙句、『しゃぶや』にした。
そして、今回は、すべての直営店は、あえて2号店を出さない。同じようなメニューを出すにしても、店名や内装、味付けや値段を微妙に変えて、表向き別の店として出していく予定だ。
俺はかつて、取引先のパン屋から、学校給食として納入するパンは、毎日、わざと硬くしたり、柔らかくしたりして、触感を微妙に変えているという話を聞いたことがある。
こうすることで、毎日同じパンが続いても飽きないのだそうだ。このアイデアも、我が領内の直営店で使わせてもらおう。
そんなおり、バランタイン侯爵からの使者として、クラークさんがやって来た。今回も、国境運河の建設を100億で請け負う。工事は1か月先の予定だ。
そして、『一の湯』に続き、『二の湯』『三の湯』が、オープンした頃、バランタイン侯爵から奴隷落ちになる人たちの情報をもらった。
俺はすぐさまサドルを連れて、トライベッカへ向かう。相変わらず、心配して血の涙を流すフミだが、今回は絶対にフミを悲しませるようなことはしない。絶対にだ!
◆
「よう、久しぶり!」
細身のおしゃれなスーツに身を包んだイケメン美丈夫が、笑顔で応える。俺は久しぶりにレインと再会していた。
場所は、トライベッカでも老舗で有名な会員制のバー『ハイランダー トライベッカ本店』。レインはこの店の常連らしい。俺のためにわざわざ個室を用意してくれた。ちなみにサドルは、バランタイン家で執事の勉強中である。
「いい店だな。早く飲みたいけど、まずは、情報交換だな」
俺とレインは、互いの状況を報告し合う。レインは、バランタイン家に仕えながら、魔力量を増やすトレーニングと、魔法の研究。この世界にある魔法には、もうほとんど手を出したらしく、これからは、今まで自分が身に着けた魔法を組み合わせて、新たな魔法を開発していく予定らしい。
「土魔法と火魔法を組み合わせて、特定の金属を取り出すことが出来るようになった。今は、バランタイン家の鉱山で、取り出せずに捨ててあった石の中から、金や銀を抽出している。この事は、俺とバランタイン侯爵しか知らない」
話を聞くと、これまでレインが取り出した金銀の総額は、バランタイン領の数年分の予算に匹敵するくらいだという。数か月ですさまじい成果である。前回会った時は、使い方に迷っていた新たな魔法も含めて、バランタイン領の発展のために使用することに決めたらしい。
「俺にとっては、2周目の世界で、ロディオに会ったことが大きい。それがきっかけで、土魔法を研究するようになったんだ」
「じゃあ、俺も練習すれば、貴金属の鉱脈を探したり、金銀を取り出せたり出来るのかな」
「ああ、出来ると思う。だけど、少し時間がかかるかもな。ロディオは、領主として、他にやることがあるだろう」
確かにその通り。はやく、スタイン領を大きくして、次のステージに移りたい。ただ、魔法も、もう少し使えるようになりたい。レインに相談すると『永久凍土』を教えてくれた。俺でも練習すれば出来そうだ。身に付けておいて損はないだろう。
「おそらく、バランタイン領の資金は、大平原の開拓や、トーチの拡張と要塞化に使ってもまだまだおつりがくるだろう。だとすると、独立は近い。ロディオの所でも、サラたちを迎える前に、騎士団の募集を始めておいた方がいいかもな」
「わかった。ユファインに帰ったら、すぐに募集をかけるよ。ところで、俺たちは今のところ、前回の行動をなぞっているだけだけど、これだけでいいんだろうか」
「うん。将来的には、独立後の3国同盟ということになるんだろうが、これをもっと強固なものにしたいな」
「まだ先の話になるんだが、こうしてみるのはどうだろう……」
俺のプランにレインも賛成してくれた。そして俺たちは、お互い手酌で飲みつつ、将来について語り合い、無事、ユファインへ帰ることが出来た。
◆
ユファインに戻った俺は、港まで迎えに来てくれたメイド服のフミとセーラー服のララノアをそれぞれ抱き寄せる。フミは少し不安そうに俺の胸に顔をうずめて、浮気チェック。女の臭いが全く付いていないことを確認して、初めて笑顔になった。
「ロディオ様、お仕事お疲れ様でした」
2人に腕を引っ張られるようにして、宿舎にしている『一の湯』に帰った。
『一の湯』の迎賓館で、お土産を渡す。この世界では、2人ともまだ可愛いままだ。俺が変われば、彼女たちに誠実に向き合えば、ずっとこのままでいてくれるのかもしれない。そう、自分が変われば、世界が変わる……のかも……。
フミには、前々から欲しがっていた調理セット。料理が大好きで、今でもしょっちゅう俺に作ってくれるフミは、大喜びしてくれた。
「これを使って、ロディオ様が大好きなお料理を、たくさん作りますね」
ララノアには、ソロバンと万年筆のセット。ララノアも嬉しそう。この世界では最先端技術なのだそうだ。
「ギルドを退職した後は、ロディオ様の奥さん兼、専属の秘書にしてくださいね」
フミとララノアはもう、すっかり打ち解けているようだ。この前も俺抜きで2人でお茶してたらしいし……。少し寂しい。
◆
国境運河の工事では、俺は、今回も全力で魔力を放つが、気絶はしなかった。ただ、ひどく疲れたので、フミの膝枕のお世話になった。
ラプトルとディラノの襲撃には、『サラマンダー』が、秘密特訓の成果を披露。運河を造った後は、農地も整備した。
侯爵からは、サラたちの引き抜きと引き換えにトーチの工事を依頼される。何と今回は、100億アールの大盤振る舞い。レインの抽出魔法のおかげだろう。
約1か月かけてトーチの要塞は完成した。フミとサラたちを連れてユファインに帰ったのだが……。
俺は、『サラマンダー』に関して何もしていない。しかし……何故か一週間もしないうちに、3人はすっかり街の顔役となっていた。
◆
ユファインでは、騎士団採用試験が無事終わり、ようやく領主屋敷の建設に取り掛かることにした。
フミやララノアの前で、俺は、メイド長のソフィに意見を聞いてみたのだが、ソフィは恥ずかしそうにもじもじしつつも、自分の意見をはっきり言った。
「ロディオ様と2人で過ごせるお部屋があれば、何でもいいです」
こうして、ソフィは、俺の第三婚約者となった。
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