第12章 第6話 ララノア
ご愛読ありがとうございます。読者様からのご意見、ご指導、ご鞭撻をいただければ幸いです。(どれだけお応えできるかは、分かりませんが……)今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いします。
トライベッカに着き、凱旋パレードに臨む。伯爵家の庭でのサイン会をこなして、論功行賞も終わった。これから『サラマンダー』は秘密特訓に入るそうだ。レインも、魔法の研究に専念するという。
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俺はレインと再会の約束をし、フミと一緒にユファインへ。建物の建設をハウスホールドからの山エルフとドワーフ、トライベッカからの大工や設計士に行ってもらうのは、前回と変わらないが、今回は倍以上の人数を投入している。サーラ商会の従業員も多数ユファインに入ってきており、街は活気に沸いていた。
エルからこっそり聞いた話では、ソフィは、商会の命運をユファインにかけるつもりらしい。俺は毎日、生きたラプトルを、前の世界でのそれより5割増しで、サーラ商会へ出荷することにした。一頭あたり取引価格は、前回より少し安くなったが、物価も下がるらしいので、人々からは喜ばれることだろう。
そんな俺たちに朗報。ハープンさんを通してリクルートをかけていた、ボアとエリが来てくれた。
「よく来てくれた、期待しているぞ!」
少し緊張気味の2人。無理もない。2人とも今まで学生だったのだから。元の世界でいう所の、所謂新卒。
俺は彼らをユファインの近衛騎士に任命し、工事につかせる。当面は、エリはボアへの魔力の供給係だが、ゆくゆくは土魔法も覚えてもらえばありがたい。
2人とも、この仕事を騎士団の重要任務と捉え、全力で取り組んでくれた。あまりに働くので、彼らのは特別休暇として、金曜日は半休にして、午後からは休んでもらうことにした。それでも街の建設は急ピッチに進む。
そして、『キッチン☆カロリー』も、ハープンさんにお願いして、無事オープンを迎えることになった。
あ、そういえば、確か……明日は、修羅場だったんだ……。
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「きゃいーん、ロディオ様! 来ちゃいました♡」
「ありがとう、ララノア。本当によく来てくれた!」
「ロディオ様のお力になってくれるというのですから、ここはひとまず、歓迎しておきましょう」
腕組みをしながら、何故かドヤ顔のフミ。
「はあ? ロディオ様の奥さんでもないくせに、上から目線の様な気がします!」
「ロディオ様は、私にプロポーズしてくださいました。私たちは婚約するんですよねー」
ララノアを見下ろすように一瞥した後、俺の方を振り返って、可愛く小首を傾げるフミ。
「はあ? どうせ一人で妄想でもしているんでしょ!」
「ムキー!」
ララノアの一言にブちぎれて、フミがつかみかかっていった。
「「ちょっと待ったー!!」」
オープンを直前に控えた店内での大乱闘は止めてもらいたい。俺とハープンさんがそれぞれフミとララノアを羽交い絞めにして事なきを得た。何でいつもこうなる!
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俺、フミ、ボア、エリの4人は、ユファインの道路と運河の整備を終えてもなお、工事三昧。今日は魔力を使いすぎたせいか、フラフラするので、木陰で休みながら、開墾の指示をしている。
農地には、現在アルカで流通しているほとんどのすべての品種を植えてみた。前回の3倍ほどの規模である。大森林の土地は、確かに農業に向いているが、場所によって適する品種が大きく異なる。
おそらく、地下に広がる温泉の水脈の違いだろう。俺は記憶を辿りながら、大ざっぱな指示をする。詳しいことは、『アイアンハンマー』の皆さんに任せよう。
来月には、バランタイン候から、トライベッカからサンドラまでの運河を頼まれている。それまでに領内の開発を出来るだけ進めておこう。
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トライベッカでは、前回よりレインの露出が多いような気がする。今回はレインも芸能活動に、前向きに取り組んでいるのだろう。
「久しぶり! 首尾はどうだ?」
「ああ、ユファインは、順調に開発が進んでいるよ。前回の2~3倍のペースだ。やはり、ボアとエリの力が大きい。ところで、レインは前回以上の人気ぶりだな」
恥ずかしそうに、頭をかくレイン。
レインは、現在、水魔法を使って、トライベッカの地下に巨大な氷室の維持をしつつ、侯爵領内を回り、農地の改良や、偶に出没するドラゴンの退治をしているという。空いた時間は魔法学院やギルドを回り、人材の発掘をしているそうだ。在野の優秀な人材を探しては、バランタイン侯爵に推薦しているらしい。
俺たちは3人で久しぶりに街に繰り出し、酒場を何軒かはしごして思う存分飲んだ。フミが席を離れたのを見計らい、俺たちは素早く情報交換する。
「ところで、ロディオは、魔法の練習は続けているのか」
「ああ、今は魔力を増やす練習をしている。あの日記に書いてあった方法を使ってな。ボアやエリも同じやり方で頑張ってくれているぞ。おかげで、俺が離れていても、ユファインの開発は、どんどん進んでいるんだ」
「そりゃ頼もしいな」
「レインは?」
レインは声をひそめる。
「俺は、新たに習得した土魔法と、索敵魔法を組み合わせることで、貴金属の鉱脈を見つけることが出来るようになった」
「で、あるのか?」
「ああ。しかし、どう使うのが“正しい選択と行動”なのかわからない」
「俺は、当分内緒にしておこうと思う」
「うん、それがいいかもな」
翌日から、俺とフミは、『アイアンハンマー』の皆さんと合流して運河造り。サンドラまでの工事をわずか1週間で仕上げることが出来た。勧誘にも成功。5人共、ユファインへ来てくれることになった。俺たちは、出来たばかりの運河を下り、ユファインへ帰国。
◆
ユファインでは、待望のギルドが完成していた。俺とフミが足を踏み入れると、早速ララノアが飛んできた。
「お久しぶりです、ロディオ様! 私、ここで精いっぱい頑張ります! ですからその……その!」
俺は、そんなララノアの言葉を遮るように口を開いた。
「今度、ララノアが休みの日、一緒にクルージングにでも行かないか?」
顔を紅潮させて俺の腕をつかみ、うれしそうにピョンピョン飛び跳ねるララノアと、眉間にしわを寄せて怪訝な顔をするフミ。そして、今回も、ただただ冷汗をかいている俺。
◆
「ロディオ様あ!」
俺の目の前で、元気いっぱい手を振っているのは、深緑のセーラー服を着た美少女エルフ。俺の記憶の中での彼女より、さらに可愛さが増している。
夕方、クルージングも無事終わり、俺はララノアを宿舎まで送る。フミには、先に帰っておくように言っておいたが、おそらく無駄だったのだろう。後ろからずっと殺気が漂ってきている。
「今日は本当にありがとうございました」
「ですが、私は今日のデートが、どんな理由かもすぐにわかりましたよ。私はロディオ様から寵愛を受けることはかなわず、体のいいお断りが、今日のデートだったんですよね」
「……」
「私、明日、サンドラに帰りますね」
両目いっぱいに涙をため、それでもこぼさずに頑張って、作り笑顔全開のララノア。
用事で一時的に帰るだけだとは思うが、もし、本当に帰ったままになってしまったらどうしよう。
そして何より、俺は目の前の天使にやられてしまった。やばい、この可愛さ、クセになる。こ、これ以上は、俺の我慢も限界だ。思わず抱き寄せたくなる衝動をこらえ、俺は背後に声をかける。
「フミ、出ておいで」
フミが建物の陰から転がるように出てきた。
「ロ、ロディオ様、そのエルフを、ど、どうなさるおつもりですか」
荒い息を吐きながら、目を血走らせている。
フミは大切だが、ララノアも嫁に欲しい。元の世界でこんなことを言うと、殴られそうだが、この世界で、みんなが一番幸せになれる形はこれだと思う。
「フミ。ララノアに、俺の第二婚約者になってもらってもいいだろうか」
…………。
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