第12章 第5話 工事三昧
貴族相手の、ベビーシッターの仕事を始めて3か月。ようやく待ちに待ったバランタイン伯爵邸での仕事が入った。そしてそれから程なく、俺が待ちに待っていたイベントが発生!
「2人とも当家の専属で働く気はないでしょうか」
キター!
そして、俺とフミはコザさんの馬車に揺られてトライベッカへ向かう。
ちなみにララノアには、遠くに行くことになるだろうから、落ち着き次第、連絡すると伝えておいた。デートはそれまでお預け。いくらララノアが可愛いとはいえ、もう失敗するのは嫌だ。
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トライベッカまでの街道整備は、トーチまで一気に造ったが、俺は平気。その後は温泉を造り、街道整備をしながら、トライベッカに到着した。
俺たちは、以前と同じやり取りの後、クリークさんやハープンさんと会い、運河造りを提案。ハープンさんからは、やはり嫌われたが……まあ、いいか。
翌日の工事は、さすがに2度目なだけあり、順調に進んだ。そしてやはり、昼にはハープンさんが謝りに来てくれた。
「まさか、貴殿がこれほどの力をお持ちとは思わなかった」
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運河の完成を祝した打ち上げでは、バランタイン伯から、ハウスホールドまでの、街道と運河の話を持ち掛けられた。
「実は今日はもう一人、客人を招いているのです……」
「ソフィ=サーラと申します」
俺は、ソフィから視線を外しつつ、小さく詠唱していたせいか、俺に対するフミの態度は変わらず。ただ、ソフィに対して険しい視線……と言うか、メンチを切るような態度のフミ。
その日は、それ以上何もなく、ほっと胸をなでおろした俺であった……。
◆
出発を1週間後に控え、クラークさんがトライベッカへ無事到着。バランタイン邸で行われた壮行会では、レインと再会することが出来た。
「よお、ロディオにフミちゃん、久しぶり!」
相変わらず快活なレインだが、すっと俺の側に近づき、耳元で囁く。
「おい、ロディオ、くれぐれも気を付けろよな。俺たちにとっては旧知の仲の人たちでも、初対面のやつだっているんだから」
しばらくして『サラマンダー』や、『アイアンハンマー』の皆さんもやって来た。俺は懐かしい皆と会えて嬉しいかぎりだが……おおっと、彼らとは初対面だった。
出発のパレードでは、相変わらず、圧倒的一番人気は『ドラゴンマスター』の二つ名を持つレイン。そして、主に人間の女子たちからの、黄色い歓声に交じって、こんな声も飛び交っている。
「……おい、あれ、あれはまさか!」
「サ、サラマンダー!」
レインとは別の意味で有名なのが『サラマンダー』の皆さん。俺は、何もしていないからね!
◆
と、いうことで、工事をこなし、ラプトルの大群にも襲われ、ユファインでの温泉造りに入る。以前と同じ場所に穴をあけると、温泉が噴き出した。
ハウスホールドでは、無事ダグに謁見。結局、前回と同じ条件で条約は締結した。その後は、ハウスホールドの周囲を囲う運河を造る。サービスとして、前回より丁寧に造っておいた。道路や石壁などの街の補修や整備も請け負い、街の皆さんからも感謝されている。
「きゃーっ! ロディオ様あ~!」
最近、俺が街に出ると、ハウスホールドの皆さんが群がってくるようになった。エルフとケモ耳女子のみですが……。
気のせいだろうか、俺の法被や鉢巻の女子も増えてきたように思う。いや……嬉しいんだけどね。ただ、そんなことより、フミの機嫌が日増しに悪くなるので、どうにかして欲しいものである。
そして、俺とレインがハープンさんによくよく言い聞かせておいたおかげで、サラとマリアの暴走はなし。2人とも、前の世界より、幸せそうで丸くなっている。
セレンとセリアは、里帰りするそうなので、人材の募集を頼んでおいた。その間は、俺たちもゆっくりしたいところだが、ダグにあいさつして、すぐにユファインへ向かう。
ユファイン領は、正式決定はまだだが、俺がもらうのがほぼ決定だろうという事で、バランタイン伯に、開発を進めることを許してもらったのだ。
◆
何はともあれ、先ずはユファイン温泉にて、露天風呂に入る。ああー癒される~。
……そう、この後、俺は前の世界でとんだ災難にあったものだが、今回は大丈夫。俺がデザインした暖簾が、ちゃんと男女別にかかっているのを確認してから湯に浸かっているのだ。
俺が一人で気持ちよく温泉に浸かっていると、外から何やらガヤガヤと声が聞こえた。
「本当、大商いですね。ひよっとしたら、次のボーナスは、すごいことになってたりして!」
「まあ、それは、私たち次第ですわね」
「ちょっと、そんなにくっつかないの」
「だってえ……」
「おい、お前たち、少しは落ち着け! せっかくの天然露天風呂だろうが!」
いつの間にか、セリアとセレンも里帰りから帰って来ていたらしい。
……というか、どうしてお前たち入ってくるんだ! おい、ここは男風呂だぞ! そして、俺の中では2度目だぞ!
「「「「「きゃあー!!!!!」」」」」
前の世界と同じく、身を隠そうとした俺だったが、すぐに女性5人に見つかり、またもや悲鳴を上げられてしまった。
なぜだ!
結局のところ、男湯と女湯を区別する青と赤の暖簾はかかっていたのだが、全員その意味がわからなかったらしい。単に男湯が手前にあったので、入ったとのことだった。
そして、翌日、俺たちはトライベッカへ向かう交易船に乗り込んだ。




