第11章 第11話 皇太子
ステアが皇太子としてアール公国に行く日が近づいてきた。どうやら、あちらの政情もずいぶんと落ち着いてきたということらしい。
皇太子の帰還に先立ち、アール公国は正式にステアとセレンの婚約を発表。バランタイン候も、我が子がようやく身を固めてくれたとうれしそう。領主からの大盤振る舞いが続き、国中が沸き立っているようだ。
ステアの婚活長かったものなあ。彼の所に持ち込まれた婚約の話は実に1000件以上。それも、厳選して絞りに絞った数だという。
トライベッカ界隈では、実はステアは最初から結婚する気がないんじゃないか? あるいはそもそも女性に興味がないタイプなんじゃないか? など、一般市民にまで気をもませていたらしい。
◆
「ステア、いつでも遊びに来いよ! レインにもよろしく」
「ああ、わかった。ロディオ様、じゃなかった、ロディオも時間が空いたらいつでも来てくれよな!」
ステアはしばらく旧都トライベッカで、皇太子として過ごすそうだ。今までの様な自由な暮らしは望めないらしい。
「俺たち3人でトライベッカに遊びに行くからな!」
「ロディオ様、フォーなんとかの活動はだめですよ!」
フミが俺の腕を掴んで膨れている。
「元気でなー!」
俺たちは、涙ながらにステアを見送り、近衛騎士団団長の後釜としては、ボアを指名した。
「ええーっ! 俺なんかダメですよ」
「いや、人は立場によってつくられるもんだ」
今回のステアの退団に伴い、我がユファインの騎士団は大規模なリストラ。即ち組織の再構築を行った。
騎士団は、直接攻撃と間接攻撃という分け方で、サラの第1騎士団と、セリアの第2騎士団とに統合された。別動隊として、風魔法による木材の伐採部隊と、火魔法による製塩部隊はそのまま置くが、人員を大幅に増やした。
今までは、その忠誠心と武勇で選ばれていた近衛騎士団は、土木工事を得意とする職能集団へと変わった。領主の俺が土木工事ばかりしている以上、周囲の騎士も一緒に作業できる者たちの方がふさわしい。
しかし、サラからは「これでは、騎士の本分である主を守る力が足りません」などと言われ、グランからも「いくら何でも土木業者の様です」などと渋い顔をされた。
俺は仕方なく、領主直属の戦力として、新たに『竜騎士団』も創設した。団長にはエリを指名。こちらはボアと違い、最初からやる気満々である。『竜木』の切り出しと植林作業は、サーラ商会と後輩の騎士団員たちに任せる事にした。
◆
「お館様」
緊張した顔で俺の前にひざまずくエリ。何でも俺に奏上したいことがあるらしい。
「この者は、私の妹のミュウといいます。まだ魔法学院の学生なのですが、我がユファイン騎士団に入りたいと熱望しております。もし許されるなら、学校を休学し騎士団に入れて頂きたく思うのですが」
エリも妹からせがまれていたのだろう。大陸の各国が安定し、政情が落ち着いているせいで、世界的に兵力は余り気味である。しかし、こんな時こそ積極的に人材を集めるべきだろう。
そう。今や大陸は、騎士団志望者にとって就職氷河期が来ようとしているのだ。
「分かった。とにかくミュウの力を見てみよう。騎士団本部の演習場に来るように」
「はじめまして、よろしくお願いします」
ミュウはショートカットで小柄できりりとした眉と目元の美人さん。というか美少女。いかんせん幼児体型のため、この世界の美人基準からは大きく外れているが……。ただし俺の基準ではストライクですよ!
い、いや審査の基準はそうじゃなくて彼女の能力だった。
「できれば、エリの跡を継げるほどの力を持った者が欲しい。ミュウはどれくらい魔法が使えるんだ?」
「はい。風魔法だけですが上級まで使えます」
「ほう!」
もしそうなら、すぐにでもエリに代わって森林伐採部隊で働いてもらいたい。
ミュウの魔法を見てみたが、ウインドカッターの精度や切れ味は、姉と遜色ないものだった。俺は嬉しくて、その場で採用を決めたのだった。
「ひやっ!」
「へぇっ!」
その場で採用を告げた俺に、びっくりするエリと、呆然とするミュウ。
しばらく騎士団の生活と仕事に慣れてもらってから、伐採部隊に配属することにしよう。
 




