第1章 第11話 ワイバーン討伐
それから一週間、レインの家に通って魔法の練習を続けた後、俺たち3人はサンドラの街を出て北の山脈にいた。
ワイバーンは見た目がプテラノドンの様なドラゴンである。それがいるわいるわ、険しい山肌に巣を作って大繁殖していた。ギャーギャーと鳴き声か凄まじい。強烈な臭いも漂ってくる。
レインは最初、依頼を受けた時は片っ端から凍らせて依頼料だけもらおうと思ったらしい。しかし、調査するうち想定以上の数がいる事が分かり、頭を抱えていたそうだ。
俺とフミは、攻撃魔法は相変わらずろくに使えないが、レインに魔力を供給することが出来る。今回の作戦は、聖水に浸したロープを巣の周囲に張り、そこにレインが水魔法でゆっくりと魔力を流し、ロープの内側の温度を徐々に下げていく。最終的にはロープの内側を、すべてチルドに凍らせるというものだ。
これには膨大な魔力がいるので、俺とフミは、レインに魔力を供給し続ける。成功した後は、凍ったワイバーンやその卵を荷車に乗せて運搬したり、ギルドへ応援に走ったりする作業となる。
◆
「よし」
日が落ちて、暗くなるのを見計らい、レインの合図で俺たちは動き出した。
ワイバーンは夜目がきかない。そして、ドラゴンは一般的に、温度が下がると活動が鈍り、一定以下の温度になると完全に動きが止まる。爬虫類の様な変温動物である。
俺とフミは、ロープで巣の周囲を慎重に囲う。昼間明るいうちに地形は完全に頭の中に叩き込んであるので、スムーズに作業を行うことが出来た。
しかしこれ、数が多い。300匹程という話だったと思うが、500匹はいる。ロープを長めに用意していてよかった。俺たちは一時間近くかかり、1キロメートル以上の長さのロープで巣の周りを囲んだ。
月が綺麗だ。9月になったばかりとはいえ、標高が高いせいか、夜になるとこの辺りは一気に気温が下がる。吐く息が白い。
昼間あれほどやかましかった、ワイバーンの巣も、今はひっそりと静まり返っている。全員寝静まったようだ。完全に活動が止まっている。
「始めるぞ」
レインは両手でロープを握り、静かに魔力を込め、ロープの内側の温度を下げていく。俺とフミはレインの肩に手を置き、魔力を送る。俺の体からレインへと魔力が流れているのが感じられる。我ながら、うまく魔力の供給が出来ているようだ。レインは最初、俺とフミにも魔法で攻撃する役割を期待していたようだが、作戦の決行までに時間がなく(俺たちの上達が遅く)途中からは、魔法の発動よりも魔力を送る練習をメインに切り替えたのだ。
……。
そのまま3時間。ワイバーンたちはすべてチルド冷凍された。レインは疲れてひっくり返り、俺は荷車を並べる。さすがに500匹以上なので、フミにはギルドに応援を頼みに行ってもらった。
結局その日はワイバーン520匹と、千個以上の卵を無傷で捕獲することが出来た。報酬をギルドで清算し、俺とフミは、何とか奴隷落ちをまぬかれるこことなった。
しかも、全部がチルド冷凍のため、保存状態が極めてよく、報酬と買い取りの合計金額は、予想を上回る金額である。レインは3等分しようと言ってくれたが、俺とフミは借金を清算した後、残りを全てレインに受け取ってもらった。
ギルドでは、この大成果に蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。何でもサンドラのギルドが始まって以来、一番の売り上げなんだそうだ。
ギルド長が揉み手をして喜んでくれ、一気にギルド内が活気に沸いた。
「よかったです! さすがはロディオ様です! そしてレインさんも」
「俺はおまけか?」
「うふふ……」
嬉しそうに微笑むフミ。
「ああ、疲れた。とにかく家に帰ってゆっくり休もう」
俺の言葉に2人ともうなずき、家路につこうとすると、後ろから呼び止められた。
「ロディオ様、おめでとうございます」
俺はララノアに声をかけられ、さっとメモを渡された。
 




