第11章 第9話 セレン
読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。未熟な作者のダメな部分を見かけられましたら、どうかご遠慮なさらず、ご指摘ください。レインのご指摘、有り難かったです。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いします。
遅ればせながら、バランタイン候へ、独立祝いのお礼を贈ることにした。ユファイン名産のラプトルの燻製肉に、干しアワビやするめなど、シーバスの『俵物』と言われる海の幸に加え、塩、砂糖、ダブルウッドのウイスキーやワインにエール、ボウモア付近で伐採した木材など、総額およそ100億アール程の品である。といっても、ほとんど原価がかかっていないのだが。
しばらくして、侯爵からは、お礼と一緒に招待状が届けられた。サンドラにて、ごく親しい身内の者を集めたパーティーをしたいそうだ。俺は、ステアを呼んで相談してみた。
「……なあ、これ、どう思う?」
「おそらく、親父の事だから、色々まとめて相談があるんだろう。当然、俺の件も出るだろうな……」
ステアは今日もお見合いの話を断ったそうだ。自分の思いを貫くのもいいが、少しは親の身にもなれよ。
……って、どの口が言うとんねん! すいません。元の世界で不本意ながら独身を貫いていた俺は、そんなことを言う資格はありません。
「うん。色々と政治的な話が出るだろうけど、ステアの話も出るだろうな」
「……」
困り顔のステアだが、ここは、俺も言わざるを得ない。
「セレンを連れて行くのはどうだ?」
俺の一言に、ステアは、顔を真っ赤にして狼狽している。
そう、この2人、傍から見ていてお互い好意があるのは丸わかり。先日も、『四の湯』で、良い雰囲気だったのを、その場にいた全員が目撃している。
しかし、お互い恥ずかしがって、自分の思いを相手に直接伝えないどころか、逆の事をしたがるため、俺たちは大いに迷惑していたのである。
セレンはステアの事だけを思っているくせに、俺にお見合いを世話するようせがんでみたり、ステアはステアで、女騎士と言うより、要するにセレンが好きなだけだろう。
俺が見るに、ステアの“くっころ”好きは、照れ隠しだと思っている。それが証拠に、ステアは、どんなに女の子から言い寄られようが、楽しくおしゃべりするだけで、自分からは手さえ握ったこともないのである。
ステアは、自分がセレンを好きなことを周囲に悟られまいと、あえて豪快に振る舞っているように見える。ばればれですよ!
本人に言っても否定するだけだろうから、俺は今まで黙っていたのだ。
「もう、いいかげん2人して侯爵様の前に行って、話すべきじゃないか」
ステアはようやく頷いてくれた。いい歳してどんだけ手間を掛けさせるんだよ……。
高校生か!
◆
俺は、フミとステアにグラン、そしてセレンとセリアを連れて、サンドラへ。さすがに本国が手薄になるので、サドルとサラには残ってもらい、ハープンさんにも、いざという時は助けてもらえるよう頼んでおいた。
ハウスホールドからは、ダグたちも来ていた。トーチからはマッカランさん夫妻の姿がみえる。内輪だけの集まりとはいえ、かなりの規模だ。
「ロディオ殿、この度は丁寧なお返し、ありがとう」
「こちらこそ。過分なお祝いを頂きましたものですから。侯爵様も、おかわりなく、何よりです」
侯爵からは、「後ほど、クラークから話があると思いますので、その時はよろしく」と言われるが、今は特に重要な話はなさそうなので、俺からの相談をしてみることにする。
クラークさんもちょうどこの場にいるのでいいだろう。
「では、せっかくの機会ですので、私からいくつか相談事があるのですが……」
「まさか。またウチの人材が欲しいのではないでしょうね」
笑顔の伯爵だが、目は笑っていない。
「いえいえ。そんな、とんでもない。まず、グランの待遇なのですが……」
グランは、ユファイン公国の実質的な宰相として、獅子奮迅の働きをしてくれている。彼の給料が最低時給なんてありえない。給料を少しでも上げようとする領主と、逆に抑えようと頑張る親子……。
普通は、逆だぞ! 帰国後は正式に宰相の任に就いてもらうと共に、年俸5千万アールで折れてもらった。
次にステアの件。案の定、渋い顔をする侯爵。後は任せた。頑張れステア!
「ステアの結婚相手としては、私の希望は、王国か帝国、もしくはハウスホールドの王族が良かったのですが……ステアが貴族の姫君との婚姻を断り続けていたのは、こんな理由だったのですね」
「はい。私は……許されないことも覚悟の上で、それでもセレンと一緒になりたいのです」
手筈通り、ダグが援護射撃。黙ってセレンをバランタイン侯爵の前までエスコートしてくれた。恥ずかしそうなセレン。顔が真っ赤だ。頑張れ!
セレンを一瞥した侯爵が口を開く。
「……わかりました。私も、我が子の幸せを望む一人の親。ステアたちは、ユファイン公国だけでなく、ハウスホールド王国まで味方につけていると見受けられます。さすがに、私も同盟している2国を相手に反対することはできません」
バランタイン候は、ようやく険しい顔を少し緩めた。
「こうするのはどうでしょうか……」
バランタイン侯爵の発案で、セレンはハウスホールドの王家に養女として引き取られることになった。ここで花嫁準備を整えて後、正式な婚約、結婚に至る。
「セレンにはこれから、ハウスホールド王家の姫になってもらいます。その後、改めて、両国で婚姻を結びましょう。何年かステアと別れて生活していただきますが、いいですね」
「はい!」
「ユファインの第二騎士団長は空席となりますが、構いませんか?」
セレンが帰ってくるまで、第二騎士団の団長は、セリアが兼任することとなった。
「お願いね、セリア」
「セレンちゃん、心配ないかもです!」
◆
最大の懸案事項が片付いて、ホッとする俺。ステアとセレンの幸せそうな顔が見れて、嬉しい。フミとマリアは、セレンと手を取り合って泣いている。
2人は、サンドラから帰国すると同時に遠距離恋愛になるが、この2人なら大丈夫だろう。逆に燃え盛ってしまったりして……。
俺たちは満足して、バランタイン候が用意してくれた迎賓館のスイートルームにさがることにした。
「ん?」
廊下に出てすぐ、音も無く俺に近づいてきた影は、カイン。フミとマリアの側にも、何やら怪しい影が近づき、手紙のようなものを渡して音もなく消えていった。
「……」
◆
「ロディオ様!」
「レイン様!」
俺とレインは、国賓用の最上級スイートルームのフローリングの上で正座させられていた。せめて絨毯の上が良かったが、そんなことは口にできない。
目の前にはフミとマリア。2人とも腕組みをして仁王立ちである。
「ステア様とセレンの、幸せそうな顔をご覧になられましたか」
「……」
「でしたら、これ以上、フォー何とかという、殿方たちの集まりについてもお考えいただきたいものです」
「そうですわ。だいたい、婚約者をほったらかしで、殿方同士で遊ぶだなんて。私たちの気持ちも考えていただきたいものですわ」
「聞くところによれば、毎月毎月、女の子を呼んで酒池肉林の大宴会をされているとか。この事を知っているのが私たちだけだからいいものを、もし、セレンが知ったらどれだけ傷つくか」
「い、いや、俺たちは……、国や人種の垣根を越えた友情をはぐくむために、メンバーだけで集まっているんだ」
「「……なら、私たちが同席して、何か都合の悪いことがあるとでも!!」」
実は、ダグはハウスホールドの暗部を完全に掌握し切れておらず、一部の者が王姉側、即ちフミに付き、俺たちの活動を報告した模様だ。
ただし、さすがに、王であるダグについての悪い情報は流しておらず、あくまで他のメンバーに無理やり引きずられて、いやいや参加しているとの報告が上がっているらしい。
ステアについては、先ほどのプロポーズで、フミたちからの株は爆上がりしており、俺とレインが諸悪の根源として、糾弾されているのである。
せっかくの誇り高き騎士たちの集いは、こうして無情にも踏みつぶされてしまったのである。
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