第11章 第6話 誇り高き騎士たちの宴
『ユファイン☆アドベンチャ―』が活況を呈し、予約待ちだという報告を聞いた翌日の朝早く、俺たち4人は、ダブルウッドのウイスキー醸造所に集合していた。
「おはよう」
「よく来てくれたね」
「抜け出すのは大変だったろう」
「お互いさま」
俺たちは、互いの労をねぎらい、無事、4人で集まれたことに感謝する。
そう、この4人とは、名付けて『フォー=フォースメン』という秘密クラブのメンバー。
俺とレイン、ステア、ダグの4人である。俺たちが月1で、秘密の会合を持つことにしているのは、国家間の最高機密事項。互いに心置きなく遊べる至福の一時である。だが、それぞれ国の要職についている俺たちが、極秘に集まるのは簡単ではない。
例えば、俺とステアは、近衛騎士団の特別任務ということで、今日は、このダブルウッド周辺に近衛騎士団を展開配備しての演習中。ついでに俺たちの警戒に当たらせている。
俺のいるところを、近衛騎士団が警戒しているのは当たり前のことで、不自然ではないのだ。
レインは、ユファイン領の視察という名目で、バランタイン候より正式にアール公国に派遣されている。俺やステアとの交友を深めるのが任務だそう。何ていい仕事だ。うらやましい!
ダグは、お忍びで、親族として、フミや俺の所に挨拶に行くという名目で来てもらった。さすがに王様が公的に俺の所に来る理由は見つからなかったようで、あくまで私人として来ている。それもこの事を知っているのは、エルビン以下、一握りの家臣のみで、ハウスホールドの王城の玉座には、影武者に座ってもらっているという。
◆
「さて、それでは、今月の議題について話し合おう」
議長は、持ち回りで、開催地の者が行う。例えば今回のように、ユファイン公国の領内なら俺。先月のハウスホールドや、ユバーラではダグ。トライベッカやトーチならステア。サンドラならレインというように取り決めている。
この会合で話し合われる主な議題は、来月の会合の場所と日時、そしてその内容。先月は、ダブルウッドのウイスキーの試飲会と新しく造ったウイスキーの命名を4人で行う事が決められたため、俺たちは今、まさに試飲をしつつ、来月の会合について話し合っている訳だ。
「俺は、久しぶりに海の幸を堪能したい。できれば、シーバスで寿司と刺身。あと鍋」
レインの意見は、元日本人としてもっともである。
「私は、他国ならどこでも構いません。もっと見聞を広めたいですし」
優等生のダグ。
「シーバスならば、寿司や刺身以外にも、海ブドウや、モズクのてんぷら、ウニ、ナマコなどの珍味も堪能できる。酒に合う肴を探すのに中々いいんじゃないか」
この会合ではステアもため口である。俺たちは、この場だけは、全員が対等な関係で付き合おうと決めているのだ。尤も、アール公国の皇太子のステアが、俺たちの中で、本来一番敬語を使われる立場の様な気がするが……。
「なら決まりだな。来月も俺んとこかよ。再来月は、別のとこな」
そうこうするうちに、メイドたちが、ダブルウッド産の全てのウイスキーと、水、氷、炭酸水に加え、フルーツ、ナッツなど、ウイスキーに合いそうなつまみを運んできてくれた。
ちなみに今回のメイドは、レインのリクエストで、全員がエルフの美少女さん。そして彼女たちは全員、『キッチン☆カロリー』の立ち上げを手伝ってもらった、ユファインの最初の領民たちである。彼女たちには、俺が、「いつかじっくり話をしたい」とか言いつつ、先延ばしになってしまっていたお詫びの意味も入っている。
メイド服で給仕を始めた彼女たちではあるが、仕事は最初だけ。後は、お話ししながら自由に楽しんでくださいということで連れてきた。
「皆、約束が遅くなったけど、存分に楽しんでくれ」
「はい、ありがとうございます!」
笑顔で応えるエルフの皆さん。俺は、全員にグラスが行きわたったのを確認しつつ、レインたちには、「今日は、彼女たちの慰労も兼ねているから、使用人扱いではなく、一人の女性として対等に接するように」と、念を押して、グラスを掲げた。
「それじゃあ、皆、存分に楽しもう! カンパーイ!」
実はダグからも、俺とレインが行ったエルフの店について、根掘り葉掘り聞かれていたのだ。さすがに俺も、王様を連れてはいけないので、それに近い形を再現できてよかった。
「ありがとうな、ロディオ」
レインはうれしそうに両手でエルフを抱きつつ、ウイスキーをあおっている。
「おいおい、せっかくだから、利き酒もしてくれよ。エルフを愛でる会じゃないんだから」
俺としては、エルフたちの慰労の次に、新作ウイスキーの命名をしたいのだ。
「うーん、なら、『くっころ』で」
出たよステア。お前、ほんとに、美少女騎士の『くっころ』が好きだね。親が知ったら泣くぞ。そんなだから、独身なんだよ。先週も、貴族の娘さんとのお見合いを断っていたらしいし。
内々でステアがなぜ結婚しようとしないのか、バランタイン侯爵から相談されているのだが、「彼は、『くっころ』好きだからです」と、正直に答えてもいいのだろうか。
「私としては、野性的な味ですから、『ワイルド○○○』なんてどうでしょう」
さすが、『フォー=フォースメン』の良心と俺が密かに呼んでいるダグ。いつ、いかなる時も冷静なのだが、酒が入るとすぐに脱ぐのは止めような。うん、義兄として忠告する。
今日集まってもらったエルフさんたちは、全員が3女以下。そして婚活中。彼女たちからしても、目の前の俺たちは大好物だったようで、過剰に思えるサービスをしてくれる。いや、彼女たちなりに楽しんでいるだけか。
「こんな、イケメン貴族様たちと、遊べるなんて夢みたいです」
「一生で一度しかないかもしれないです」
「これ、本当に無料なんでしょうか」
などと言いつつ、リアル王様ゲームにものりのりである。俺としては既婚者の人妻エルフを呼べば、もっとまずかったのだろうし、年齢層を下げても事案が発生しそうだ。レインの要望内では、これが最も安全な人選だったように思う。
俺も楽しい。
はっきり言おう。
生きてて……いや、異世界に転生して、本当によかったあ~。
◆
「……カポーン」
この後は、俺自慢の露天風呂にみんなで入浴。風呂上りは浴衣に着替えて、冷えた瓶ビールに枝豆を味わう。エルフたちの艶やかな浴衣姿は、新鮮で思わず見とれてしまいそう。
写真を撮ったらそのままビールのポスターになりそうだ。俺は女性の美しさとは、決して肌の露出度合だけで決まるものではないと再確認した次第である。
ちなみにこの枝豆、ボルグさんの畑でとれたばかり。いいものが出来たと俺の所に持ってきてくれたものだ。
元の世界で例えれば、日本の丹波産のもののように大きく、茹でるとホクホクしてうまい。俺は茹でたてのものと、茹でた後に炒めたもの、2種類を用意。シーバス産の塩を軽くかけていただく。
うーん、たまらん。皆も、大絶賛してくれた。
俺たちは、ダブルウッドの隠れ家で思う存分、楽しい一時を過ごした。
そう、あの時までは……。




