第11章 第5話 『ユファイン☆アドベンチャー』
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ユファインの港には、グランが迎えに来てくれていた。彼が時間に正確なのは、あらかじめ聞いていた帰還日時に合わせて、港で索敵魔法を展開。俺の乗る船を発見して、その速度から港に着くまでの時間を計算し、それに合わせているだけだとか。
グランはレインをも超える索敵魔法の使い手なのかも知れない。
グランはスタイン家の執事でありながら、ユファイン公国の事実上の宰相の仕事をしてもらっている。クラークさんの言いつけで、最低時給で働いてもらっているのが申し訳ない。今度、会った時にでも相談してみよう。
そんなグランが、港から領主の専用馬車に乗り込み、周りに人がいなくなった途端、難しい顔をした。何か嫌な予感がする。
「ロディオ様、実は、ユファインの観光客が、減少しています」
トーチとユバーラのせいだろうか。
「申し訳ありません。ロディオ様の留守を預かっておきながら、我が領の売り上げを減らすなど」
ラプトル肉、木材、塩の3大輸出品は堅調の様だが、観光業が落ち込んでおり、自慢の10大温泉も、空室が出ているとのこと。これは、ユファインに魅力が足りないと言われているようなものだ。
サーラ商会の借金も、ようやく完済する目途が付いたときだけに、これでは先が思いやられる。このままいけば、ユファイン公国全体として、単年度で赤字に転落する恐れもあるそうだ。
しかし、我が領の観光部門の減収は、心あたりがいっぱいある。
俺とグランは、政庁に帰るなり、2人で執務室にこもり、状況を分析することにした。
「今、世界で一番の人気は、何といっても、トーチのドラゴンサファリです。我々としては、サンドラ以北の観光客を奪われています。温泉は新たにユバーラが出来たせいで、ハウスホールド以南の観光客が減っています」
……全部俺のせいだよね。
「分かった、グラン。新たな作戦を考えるぞ」
◆
俺たちが徹夜で立てたプランは、『ユファイン☆アドベンチャーツアー』。目玉は人造湖から出発し、ボウモア、ダブルウッド、シーバスを運河で巡る、4泊5日のスタンダードコースに、3泊4日のショートコース。
当然、途中にはドラゴンのお出迎えあり、グルメや買い物ありと、他の観光地には負けない自信がある。また、ボウモアまでの1泊2日プランや、ダブルウッドまでの2泊3日のプランも用意しよう。
この世界で温泉を造り続けてきた俺から言わせれば、温泉だけなら、泉質や種類からしてボウモアが一番であるし、この近辺で新鮮な海の幸を堪能できるのはシーバスのみ。
ドラゴンサファリにおいては、この『竜の庭』こと大森林が本場。
ウイスキーをはじめ、ことお酒においては、世界一の高品質を誇るのがダブルウッド。ウチのコンテンツはどこと勝負しても負ける気がしないのだ。
1か月かけて、ツアーで訪れる観光客の動線をシミュレーションしながら、観光客を本格的に受け入れるため、整備を進めることにした。
フミたちはそれぞれ忙しく、「グランにお側で見張ってもらえるなら……」と、婚約者不在での出張を、しぶしぶ認めてくれた。
◆
翌日、俺はグランと共に、ボア率いる土建部隊、更にはセリアの工兵部隊を動員し、運河の補修や拡張を繰り返しつつ、シーバスを目指す。
まずはボウモアへ。まだ新しい『森の湯シティー』を視察する。
この街は、シーバスやダブルウッドからの輸出の中継地点で、騎士団の大きな演習場兼合宿所が設けられている。木材の切り出しや植林も行われているが、観光客受けする何かめぼしいものはないだろうか。
何もなさそうだから、仕方なく俺は久々にステアと共に演習を見学したのだが、その迫力にびっくり。前回、一度だけステアの演習を見た時は、ステアが軽くラプトルたちを制圧していた。
余裕そうなステアを見て、正直それほどの迫力はなかったのだが、今の新人騎士団員たちが、ラプトル相手に血汗を振り撒きつつ奮闘する姿は手に汗握る大興奮。
騎士が強制的に演習場のグラウンドから引っ張り出され、治癒魔法をかけられている場面など、本物ならではの臨場感だ。
正直、日本の大相撲や総合格闘技、あるいはボクシングやプロレスといった、元の世界における客を入れての興業に比べて、その迫力において少しも引けを取っていない。これが毎日、無観客で行われているのだ。これはビジネスチャンスだろう。
「グラン」
「はっ」
グランは俺の一言で全てを察し、騎士団と交渉へ。筆頭騎士団長であるサラにも来てもらい、ここでの演習に観客を入れる案を検討する。
サラは、第三者の目があれば、騎士たちもより真剣になるだろうということで、全面的に賛成してくれた。
俺たちはこの演習場の周りに、屋根付きの観客席を建設する。
この作業には、駐屯する近衛騎士団も参加し、5日かけて何と座席数8千。立ち見を含めると、1万人収容のコロシアムが完成した。
毎日、午前と午後2回に分けて2時間ずつ演習しているそうなので、ボウモア観光の目玉にしよう。ちなみに、この演習で使われたラプトルは、その日のうちに解体され、熟成後に、バーベキューにして食べているそうなので、ボウモアの『森の湯温泉』の名物料理にしたい。
しかし、単なるバーベキューでは、レア感がないな。
街の中で、住宅地を建設中の職人さんたち。屋根は瓦の様なもので葺かれている……あれ、これって……!
俺が思いついたのは、瓦焼き。熱した瓦に油をひき、薄切りにスライスした肉をその上で焼く。ネギなどの薬味や、柑橘系のフルーツを輪切りにして乗せ、さっぱりとした出汁でいただく。
日本の『瓦焼き』は、もともとは戦争の時に、瓦に肉や野菜を乗せ、フライパン替わりにして焼いて食べたことが由来という説がある。このボウモアにぴったりの郷土料理になりそうだ。
すぐに、試作品を作り、グランを含め、職人さんたちに食べてもらうと大好評。名物に育てたい。
この街では、我がユファイン公国騎士団を全面的に売り出すことにする。ラプトルやディラノの牙や爪、更には、騎士団のマントや制服、リュックに靴など、本物の装備をそのままお土産として、売るのもいいかもしれない。
元の世界では、日本の自衛隊も、似たようなことをしていることだし。携帯食料などの消耗品も人気商品になるだろう。
騎士団の装備を統括するセリアに相談すると、これらの販売は問題ないとのこと。サーラ商会からの供給を増やせてもらえれば、十分販売できそうだ。
よし! 例え人気が出ても、『ユファイン騎士団グッズ』は、ここボウモアのみの限定販売にしよう。ステアは女性人気が高いから、お古を売ればプレミアがつくかも……などと考えてしまい、いかんいかんと頭をふる。これじゃあ、まるっきりバランタイン侯爵の発想じゃないか! でも、サイン入りのグッズくらいはいいよね。
翌朝、近くで採れた山菜のスープとドラゴンの卵を使ったオムレツなど、ご当地料理を堪能させてもらい、満腹した俺たちは、ダブルウッドへ。
◆
ダブルウッドはしばらく見ないうちに、すっかり都会になっていた。近くのシーバスの人口がいつの間にか20万を越えたせいか、こちらも10万人に迫る勢いだ。
街が出来た頃、山奥の田舎への移住を勧めていた俺は、最初の住民たちに対して何だか申し訳ない気もしている。その住民たちとは、主にドワーフやホビットで、主にウイスキーや鍛冶、或いは農業に従事してもらっている。しかし、俺たちが訪ねると、笑顔で生き生きと働いてくれていた。
「ここも、最近は随分開けて、都会になったけど、俺たちのやり方に、誰も文句言わない所がいいね」
彼らの話を総合すると、ダブルウッドの移住者たちは、最初の住人に対して敬意を払い、尊重してくれているらしい。
都会が嫌で田舎に行きたいという、ともすると偏屈に見える彼らも、自分たちが周囲から重んじられている環境では、居心地が悪いはずもなく、ダブルウッドでの暮らしに満足してくれている様だ。
鍛冶職人の工房を見学した後は、醸造所へ。ウイスキーをはじめ、各種エールやワイン、更には炭酸水を使ったハイボールなど、お酒を満喫。ここのワイナリーも拡充したい。
良い気持ちになっているところに、「観光ならこんなのはどうだ」と、ドワーフの親方に案内されたのは、鍾乳洞。
洞窟の中は、ほのかに自然に光があふれて幻想的。奥には湖もあり、その幻想的な姿に、俺は瞬く間に心を捉えられてしまった。街からほど近い立地もいい。これは人気が出そうなスポットである。足場や手すりを整えるだけで、すぐにでも観光客に来てもらえそうだ。
食べ物では、ウイスキーやブランデーを使った女子受けしそうなケーキやパフェの店ができていた。ここの売りは、酒蔵めぐりと、鍾乳洞、スイーツで決まりだろう。蜂蜜が多く取れるため、さまざまなお菓子や料理に取り入れたい。俺たちは、クレープの試作を作って、街の皆に食べてもらった。将来、メニューに加えてもらえれば嬉しい。
感謝する住人たちと別れ、俺たちは『山の湯シティ―』へ。騎士団の詰め所にいるエリと久しぶりに会う。彼女は今では風魔法が使える騎士20人を束ねる隊長までになっている。
彼らは毎日、サーラ商会の担当者や、ギルドの冒険者たちと連携しながら働いている。木材の伐採、運搬、植林と単純作業を強いられているせいで、不満もあるかもと思っていたのだが、そうでもないようだ。
何しろ業務が特殊なせいで、ユファイン騎士団の名物であるドラゴンの訓練には、5級以上に上がりさえすれば、参加しなくて済んでいる。
その上、俺の定めた就業規則である『週休2日、1日8時間労働』のおかげで、非番の日は、シーバスで海の幸を満喫したり、ボウモアの温泉にゆっくり浸かったりして、人生をエンジョイしているそうだ。逆に転勤させないでくださいと懇願された。俺としては従業員が満足して働いてくれていれば文句はない。
◆
シーバスは、未だ発展途上。だが、この地のポテンシャルは、ユファイン以上かもしれない。
今はファイヤーボールなど初級の火魔法ができる者を騎士団から派遣しての製塩業、更に獣人の希望者で構成された漁業組合が、沿岸での漁や小規模の養殖をしているくらいである。ただ、ここで造られる塩は、かなり高品質らしく、サーラ商会と独占契約を結んで世界各国に輸出されている。そして海の幸も絶品。サトウキビの製糖工場も本格的に稼働をはじめた。
俺は、『浜の湯』に入りながらグランと相談する。
「なあ、この海をビーチリゾートにして、温泉付きのホテルを建てたら一泊いくらくらいになるだろうな」
「おそらく、スタンダードクラスで、一人一泊1万5千アール位でしょうか。ですが、この地に観光客を呼び込むには、一般的な料金体系では難しいですね。」
俺が悩んでいるのもまさにその点。ユファインから約130キロの道のりは、観光客を呼び込むには遠すぎる。
「ここは、思い切って、1万アールくらいでは」
「いや、1泊2食付きで大人1人、5千アール以下。ここでは利益は出なくてもいい。逆に観光客がここまで来てくれるだけでありがたいのだから」
俺たちは、『浜の湯』の源泉や露天風呂の増築、港の整備、更には店舗や居住地の基礎工事を念入りに行う。特にこの地は年中泳げるうえ、日本の白浜の様に、ビーチ近くに天然温泉を造ることもできた。
ビーチは白い砂浜が数キロ広がり、磯からエントリーすれば、鮮やかなサンゴ礁が広がる絶好のシュノーケルポイントが点在している。
正直、俺からすれば、これだけで何週間も滞在して遊び倒したいのだが、ぐっと我慢。シーバスをユファイン最大の観光地にするため、グランと相談する。
丸1日議論を交わし、やはり、観光の目玉としては、水族館ということになった。目玉として、大水槽でこの世界における海の最大生物であるメガトロンというサメを展示する。他にはイルカに似た水棲哺乳類が、知能が高く調教が可能なため、ショーができるかもしれない。
水圧に耐えうる厚さの水槽のガラスに関しては、ドワーフの精錬技術でどうにかなりそうだ。何せこの世界では初となる水族館である。
ダブルウッドから、ドワーフを呼んで相談した結果、水族館というよりは、サンゴ礁の真ん中に、海中展望台のようなものを建てることで落ち着いた。
飼育員を育てている暇はないのだ。観光客は、海中展望台から海の様子を見学し、サンゴ礁の海を堤防で大きく囲ったプールにメガトロンを放ち、そこでシュノーケリングしてもらう。メガトロンは、ジンベイザメみたいに、海中のプランクトンを食べるので、人間と一緒に泳いでも問題ない。
浅瀬には安全な生き物たちでタッチプールを造る。これだけでも、海を見たことがない、人や子どもなら、十分に喜んでくれることだろう。
グルメに関しては、寿司や刺身に加え、クエに似た魚が沿岸部でも水揚げされることから、鍋も名物に。カキとブリは養殖も好調なので、カキ料理やブリしゃぶの専門店もオープンする予定だ。
俺たちは、翌日から早速、工事に取り掛かったのだが、規模が大きすぎた。ユファインからセリアの工兵部隊の大半を呼び寄せても追いつかない。
ギルドを介して、作業員を大量募集し、ようやく1か月後、この街の基礎だけは完成した。後はドワーフと山エルフに任せることにする。
海からは、もしもの襲撃に備え、防壁を張り巡らせる一方、漁船の港も整備。背後の森に対しても、運河と外壁で、ドラゴンの侵入を阻止。
農地も耕して用水路を整備し、店舗が入る商業区や居住区、更には鍛冶職人たちが集まる鍛冶区などを整備した。
シーバスに関しては、まだまだ建設途中や、計画段階の施設が多いのだが、俺は思い切って来月から、『ユファイン☆アドベンチャーツアー』を大々的に売り出すことにした。
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