表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/159

第11章  第1話 国賓

 

 翌月、俺たちはハウスホールドへ向かっていた。ユファイン領内の整備も落ち着き、後は大工や技術者たちの出番ということで、我々土木作業員の仕事はしばらく無い。


 今回の外遊は、一応国賓として招待してもらっているものだが、俺にとっては土木工事込みの外交である。


 同行するのは、フミとステアにボア率いる土木作業部隊の10名。騎士団の中だけでなく、領内を隈なく探し回ってようやく見つけた土魔法使いたちである。


「そういや、ステアはハウスホールドは初めてだったよな」


「はい。楽しみです」


 ステアはそう言ってさわやかな笑顔を見せる。アール公国で騎士団を束ねているゴーザより、剣の腕前は上とのこと。そして、ユファイン騎士団の昇給制度で3段はステアだけなのである。こんな頼もしい護衛もそうはいないだろう。


 俺も一度、演習場に視察に行った際、5匹のラプトルを軽くいなしつつ、わずか数分で殺すことなく難なく制圧してしたステアを見たことがある。

 余りにも平然としていたので、そのときはそんなもんかと思っていたが、よくよく聞くと彼の強さは規格外らしい。


 同僚からも好かれているようで、丁度その時見に来ていたセレンなんて、耳まで真っ赤にしながら声をからして応援していた。俺も、運動会や球技大会で、あんな風に女子から応援して欲しかったなあ。



 プライドの高いサラも、素直にステアの実力を認め、第一騎士団長の座を譲るとまで言い出したこともあった。あれには慰留するのに苦労させられた。


 俺としては、近衛騎士団長は、同性で気の合う者がいいし、ステアもそうだろう。将来は、皇太子としてバランタイン候の跡を継ぐ身だから、実務と訓練に明け暮れる第一騎士団長より、近衛騎士団長として、俺を護衛するという名目で、他国へ行ったり、貴族と会ったりする方がいいはずである。


 先の戦役が落ち着いた後、ステアについては、バランタイン侯爵から、引き続き近衛騎士団長として見聞を広め、経験を積ませて欲しいと頼まれた。執事に関しては、その大変さを頭だけでなく、体でも分かってもらったようだから、もういいそうだ。


 そして今回のハウスホールドへの訪問は、ブラック気味、いや、労働基準法違反の様な状態まで働かせてしまったボアたちへの謝罪と慰労の意味もある。


 一応、皆1日8時間、週休2日制の範囲での仕事だったそうだが、ハープンさんたちの期待から来るプレッシャーで、ボアたちは、何度も気絶するまで魔法を使い続けていたのだ。


 俺が至らぬばかりに申し訳のないことをした。そのおかげで更なる魔力量を身に付けたのは、喜ばしいかぎりなのだが……。


 俺たちと一緒では気づまりだろうからと、もう一艘、別の船を用意して、彼らには俺たち抜きで、ゆっくりくつろいでもらえるよう配慮しているのである。


 ◆


 俺たちは、ゆっくりと船旅を楽しんで、ハウスホールドに到着。早速、王城に招かれて、王族、貴族たちとの晩餐会。


 ボアたちには翌日から一週間、ハウスホールドでの休暇を満喫してもらうことになっている。しかも、彼らには滞在中、案内役として専属のエルフさんが同行してくれるそうだ。今まで頑張ってきてくれた分、楽しんでもらいたい。


 翌日から、俺とフミとステアの3人は、王姉、そして同盟国の領主や皇太子として、様々なパーティーに引っ張りだこ。


 俺たちは国賓扱いのため、断ったり途中で抜け出すことも出来ず、ただただ疲れるだけである。


 ダグには悪いが、慣れないことで、肩が凝って仕方がない。これじゃあ働いている方がましだ。こんな中、少しも苦にしていないのが、ステア。さすがに生まれながらの貴族は違う。社交界でもスマートな身のこなしである。


 ステアが未だに独身で、婚約者もいないこともあってか、ハウスホールドの貴族たちからの人気がすごい。ところが当の本人は、結婚には全く興味が無いように見える。

 こればかりは本人の好みに関わることだから、俺も口出ししたくないんだが、クラークさんを通してバランタイン候からいろいろ頼まれている。困ったことだ。


 ◆


「なあ、ダグ、そろそろ働きたいんだが」

「すみません、義兄上たちには、全く楽しめないものばかりで、申し訳ないです」


 俺たちは4人で王宮内にある王のプライベートルームで、エールを片手にピザとナッツをつまんでいる。俺としては、毎日の様にバーベキューをしていた頃が懐かしい。


「あのさ、次のパーティーは、少人数で非公式なものにしてくれよ」

「承知いたしました、義兄上」


 ダグが日程を調整してくれたおかげで、俺たちは、翌週からようやく仕事に取りかかれることになった。


 それにしても……パーティーが嫌で仕事がしたいなんて、元の世界の俺からしたら、考えられないくらい贅沢なことだよな。


 俺は、フミのいい匂いのするサラサラの髪をなでながら、異世界に来れたことを、心の底から感謝した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ああ、確かに気疲れしそうですね。 私だったら仕事じゃなく趣味に逃げそう(ォィ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ