第10章 第3話 サラマンダー
いよいよ、戦いが始まりそうですが、『サラマンダー』がいるだけに、今後の戦いは……。ま、まあ良くも悪くも彼女たちらしい活躍をしてくれると思います。今後とも応援よろしくお願いします。
「おい、あれ」
「ああ、噂は本当だったらしい」
共和国の騎士たちが口々に噂している先にあるのは、サラマンダーの旗。彼らも、そんな旗なんて、初めて見るのだが、何しろ自分たちの名前を、でかでかと刺繍しているんだから、きっとそうに違いないのだろう。
俺は、カインたち諜報部隊の活躍のおかげで、ユファインにいながら、手に取るように敵味方の動きを把握することが出来ている。ダグが気を利かせて、ハウスホールドの暗部の精鋭を寄越してくれたのだ。
俺は、ユファインの執務室で、何枚ものモニターを見ながら、戦況を確認している。隣にはダグ。こちらからの音声が送れないのはもどかしいが、魔力を流すと、暗部が中継する映像が届く。これぞ、ハウスホールドが誇る最新技術らしい。もはや、俺の執務室は、大量の機材とハウスホールドの魔導士たちのおかげで、もはや○ルフ本部みたいになっている。
ウチの初号機から3号機に、指令を送れないのは何ともつらいが、暗部の皆さんは、未知の秘境を探検する様子を撮影するカメラマンより大変に違いない。
このトーチ要塞攻防戦では、同盟軍は、籠城策をとる様だが、マリアを含めた『サラマンダー』と、一部の部隊は、現場の判断での自由な行動が許されているという。ユファイン騎士団を、まるまるコーザの本軍に編入することで、認めてもらったそうだが、同盟軍も、有名なパーティーが自分たちの味方だと、敵にアピールする狙いがあるそうだ。
ユファイン領主の俺としては、彼女たちには騎士団を率いておとなしくしていてくれる方が安心なのだが……。
◆
「きぁああ、皆さん、お久しぶりですわ!」
「あの時以来だな」
“あの時”とは、君たちの痴話げんかのせいで、ウチの防衛と治安機能が一時的にダウンしてしまった、“あの件”のことだろう。正直、俺も恥ずかしすぎて、対外的に詳しく説明できていない。
「ところで、相手の様子と、我が軍の状況が知りたい」
「それでは、レイン様とゴーザの所に案内しますわ」
「その前に、皆の再会をお祝いしたいのです、です」
そういって、大きなカバンの中から、何やら分厚い布を広げるセリア。
そこには、紫の布地に火を噴く真っ赤なドラゴン。そして金の刺繍で『サラマンダー参上』の文字が入った巨大な旗。一般的な軍旗より一回り以上大きい。
「これを掲げていると悪い虫が寄り付かないからと、お兄ちゃんに持たされたのです、です」
いや、そんなの広げていたら、一般人は誰も寄り付きません。
きゃいきゃい言いながら、彼女たちは無邪気にも意気揚々と自分たちの旗をトーチ城壁の真ん中に掲揚。そのせいで、他の国の軍旗を掲げる係は遠慮してしまっている。気の毒なことだ。
◆
「やはり、噂は本当だったのか……あの『サラマンダー』が、バランタイン陣営として参戦しているというのは……」
共和国の騎士たちの間には、『サラマンダー』の恐怖伝説が広まっていた。ちなみに俺はこの事に関与していない。無実だからな!
彼女たちは冒険者時代、敵対するギルド(サラと職員の相性が悪かっただけ)で大乱闘。多数の死傷者を出し(実際は負傷者のみ)、ギルドの建物をまるごと破壊(これは本当)した。さらに人間相手ではもの足りなくなった(ん?)彼女たちは、活動の場を『竜の庭』に移し、ラプトルやディラノを虐殺(討伐)しては、毎晩大森林の真ん中で、恐怖の宴(みんなで楽しくバーベキュー)を繰り返す。
ユファイン公国の奥地では、何と捕えたディラノと生身の人間を戦わせ(騎士団の訓練)、それを見て楽しんでいる(評価している)という非道っぷり。
先日、ギルドと騎士団が対立し、ユファインを二分した内乱(単なる痴話喧嘩)の原因も彼女たちだとされている(これは本当)。
アール公国やユファイン公国の独立と、ハウスホールドを加えた3国軍事同盟、そしてこの度の戦争に至る原因を作ったのも、実は『サラマンダー』だといわれている(さすがにこれは、あまり関係ない)のだ。
たった4人にもかかわらず、その戦力は一国の軍事力にも匹敵し、世界情勢にも大きな影響を与えると言われる恐怖のパーティー……
解散したはずの『サラマンダー』が再結成され、攻め込んでくるという噂は、今やサンドラの子供たちの間にさえ流布されていた。
◆
いつか、ララノアからこっそり聞いた話では、例のギルドでの大立ち回りの原因は、単なる計算間違い。『サラマンダー』が、受けたあるクエストで、サラが報酬が少なすぎると、勘違いしたことが原因らしい。
報酬から必要経費を引いた分を『サラマンダー』の取り分としたらしいのだが、引き算が苦手なサラが、桁を一つ間違っていたという。
サラは、ギルドが誤魔化したと思って、カウンターで激怒。止めに入った職員とつかみ合いになり、激高したサラが、背中に背負った大剣『フェンリル』のつかに手をかけたものだから、ギルド内は、大混乱。
サラは、脅すだけで、本気で剣を抜く気は無かったらしいが、慌てたセリアが、サラに抱き着いて止めようとして振り払われ、焦ったセレンが、攻撃魔法と治癒魔法のダブルコンボを出してしまったらしい。当然、建物は大破した。
この件で、ギルドの職員をはじめ、冒険者にも多数の負傷者が出た。『サラマンダー』には、修理代や医療費、慰謝料など多額の賠償金を請求されることとなる。もし、その場に、マリアが居合わさなければ、3人の奴隷落ちは確実だったそうだ。そして、この事件がきっかけで、マリアは『サラマンダー』のメンバーとして、正式にパーティーに加入したそうである。
ギルドからすれば、面目を潰されたような不祥事で、無かったことにしたい案件らしい。また、『サラマンダー』にとっても、リーダーによる引き算の計算間違いが発端という事で、これまた思い出したくもない黒歴史となっている。互いが口をつぐんだせいで、間違った噂が訂正されず、世間に広まったままになっているらしい。
◆
「何とか、『サラマンダー』を敵にまわさずに済む方法は無いのだろうか……」
共和国のベテラン騎士の一人がつぶやく。
「もう、手遅れだ。何しろ、マリアはバランタインの義理の娘で、婿のレインはバランタイン家の筆頭魔導士。残りの3人は、バランタインと同盟しているユファインの初代騎士団長たちだろ。しかもリーダーのサラの旦那は、ユファインのギルド長。俺たちに攻められているんだから、牙をむいて襲い掛かってくるのは当然だな」
「俺たちは、何であんな化け物たちと戦わなければいけないんだよ」
「そんなことは、上に言うんだな。アイツらは血に飢えている。戦う理由さえあれば、何でもいいんだろうさ」
「……」
気の毒な事に共和国の騎士たちは、恐怖におびえながら、いやいや参加している者が多いようだ。
一方、王国の軍勢は、戦力的には10倍以上も自分たちの方が多いのだから、負けるはずはないと高をくくっているようだ。『サラマンダー』の評判も、王国までは浸透していないらしい。戦慣れているせいか、あくまでもビジネスライクにとらえ、今回の戦争に勝利すれば、恩賞に預かれるということで、皆の表情は明るい。
びくびくして怯えながら進む共和国軍と、もう勝った気で、能天気に進軍する王国軍。彼らはトーチの正面城門1キロ手前で全軍停止し、城内に使者を送って相手の出方を待つようだ。『サラマンダー』の旗を目視して動揺しているのは、共和国の騎士だけで、あとはのんびりした様子。
悠々と野営の準備にかかる12万もの大軍。おいおい、ここがどこだかわかってんのか。『竜の庭』の数倍にも及ぶ、ドラゴンの密集地だぞ。
ガラスに映し出されたモニターを見ながら、俺は叫びそうになった。ひょっとすれば、新兵器として城壁に設置している大砲の出番すらないかも知れない。
その日も、ユファインからは、数百匹の食事を抜いたラプトルと、数十匹のディラノが放たれたばかりである。恐らく、今日で、腹をすかせたラプトルは2万、ディラノは150を超えていることだろう。
ドラゴンの搬入を任せているサーラ商会も、これ以上は危険だということで尻込みしている。ほ、本当に、これ以上はやばいそうだ。
俺はこれ以上の搬入を中止させ、今後の推移を見守ることにした。
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