第9章 第9話 近衛騎士団
今回のハープンさんとサラの件は、笑い話では済まされない。我がスタイン領は、今回の様な諜報や外交で、いともたやすく骨抜きにされるという弱点が露呈された。ウチも諜報網の整備を進めなくては。
そして、改めて考えてみれば、我がスタイン領の騎士団は、種族こそバラエティーに富むが、すべて団長は女性。俺直属の、男性の団長がいてもいいだろう。
最近、奴隷や獣人からの騎士団への入団希望者が多い。財政的にも少し余裕があるので、第五回の騎士団採用試験をしたい。サラからも、新たに4つ目の騎士団を作ってはどうかと相談されたばかり。そろそろ近衛騎士団を作ってもいいのかも知れない。
だが、そうそう都合よく、騎士団長を任せられる人材がいるだろうか。できれば男性で……。
……いた!
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バランタイン候に相談すると、二つ返事で快諾してくれた。
そして俺は、騎士団採用試験を告知する。独立が近いため、告知期間はわずか2週間にもかかわらず、応募者は3千人を越えた。
一次試験はこれまで通りの体力試験だが、2千人以上が合格したため、これでは実技や面接をしきれない。グランに相談すると、公平な条件で選抜するなら、同時スタートのレースしかないとのことで、上位千人を合格とする条件で、ここからダブルウッドまで約100キロのレースはどうだろうかと提案された。
俺はグランの案を採用し、実技と面接は、ダブルウッドですることを告げる。こんなこともあろうかと、ダブルウッドでは、宿泊施設を増設しておいて良かった。ホテルにマンション、食堂に日用品店と、サーラ商会の力も借りて、何とか試験までには間に合わせることが出来た。
サーラ商会は、塩の販売が好調。それに加えて、砂糖の生産と販売も軌道に乗りつつある。シーバスとハウスホールドにも支店を出す予定で、店員を大募集中だ。この度の採用試験にも、スポンサーとして、全面的にバックアップしてくれている。
ギルドも事務員だけでなく、ラプトルを解体・運搬する職員が足りないそうだ。スタイン家としては、執事になりえる人材が欲しい。それから、直営の農地を耕してくれる農民も欲しい。
スタイン家の人材採用に関して俺はグランに任せ、俺はステアと共に騎士団の選定。今回の合格者を中心に、特に倫理観と俺への忠誠心が厚いものを集めて、近衛騎士団を作る予定である。
実技と面接を経て合格者は約400人。魔法が得意な者もいた。彼らには初任者研修が終わり次第、土魔法が出来る者はボア、風魔法が使えるものはエリ、火魔法が出来るものは製塩作業へ向かわせる。更に100名を選抜し、第四騎士団として俺の近衛騎士団を作った。残りの団員はそれぞれ、3つの騎士団に振り分けられることになった。
今回も最終不合格者はバランタイン領に採用された。今回もクラークさんがほくほく顔で、600名もの騎士団候補生を引率して帰っていった。ステアも、グランの下で執事のイロハを学び、ダブルウッドで、ドワーフの職人たちと試行錯誤しながらウイスキーを造り、そして騎士団長として俺の近衛兵を率いてもらう。いい経験をしているのではないだろうか。バランタイン侯爵も喜んでいるだろう。
俺も飲み友達が近くに来てくれてうれしい。機会があれば、ダグにも紹介して、レインと4人で飲みたいものだ。
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今日は、出張という事で、ダブルウッドを視察。そして、ステアに新たな任務を直接伝える予定だ。
試飲と称して、出来たばかりのウイスキーを飲み比べる。薫り高く、アルコールの度数が高いにもかからわらず、飲みやすい。今回はレインも来てくれている。
「いや、すごいな。〇崎に近いかも」
「そうだな、ジャパニーズウイスキーの中で例えるなら、こちらは〇州に近い」
俺とレインの会話に首をかしげるステアだったが、ここに並べられた数種類のウイスキーは、恐らくこの世界では、最高レベルのものに違いない。試しにハイボールを作ってみたのだが、これも絶品だった。炭酸で割るのが少しもったいないくらいである。
ダブルウッドではエールや葡萄酒の生産も軌道に乗り出し、今後スタイン領の主要な輸出品になるに違いない。
近衛師団の団長の件をステアに伝えると、少し寂しそうな顔をしていたが、快く引き受けてくれた。自分が今まで培ってきた剣技を存分に発揮できる場が出来たのが嬉しいのだそうだ。




