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オーレリアは笑いながら、蔑むようにダイアナの顔を見上げていた。
「若さしか美しさの価値を知らないなんて、不細工は頭の中身まで不細工なのね!」
顔を歪めるダイアナへと罵声を浴びせてオーレリアは笑顔を浮かべた。
その笑顔は宝石の輝き、星の瞬き、月光の煌めきにも等しい美しさを保ち、オーレリアは自分の美貌を誇るように笑った。
「私は永遠に美しいのよ! 私が自分が美しいと思う限り、他のクズどもの評価など入りこむ余地もなく美しいの! 自己の美に誇りもなく他人に縋るような塵には分からないでしょうね。 お前の美しさなんて所詮その程度よ、不細工!」
この世に自分が醜いというものがいようと関係ない。 自分が美しいと信じる限り、例え老いさらばえようとも惨めに朽ち果てようともオーレリアの美しさは揺るがない。
そう断言したオーレリアにダイアナはおののいていた。
この女は馬鹿なのか? 今の状況が分かってないのか? 生きるも死ぬもダイアナの匙加減ひとつの状況で何故そうも居直っていられる。
そして、ダイアナに対してジェシーもまた笑顔を浮かべていた。
「オーレリアお姉さまの美しさを見た目しか分からないなんて可哀そうな人。 お姉さまが美しいのは未来永劫変わらない。 だから私は永遠にお姉さまの側にいるの! 美しいお姉さまが胸を張れと命じてくれる限り、私はどれだけドレスやリボンが似合わなくても最高の私でいられるから」
断言するジェシーの表情に迷いは無かった。
ダイアナには分からなかった。 どうしてこの女が今、笑えるのか。 そしてそんな女を心から信じられるのはどういう意味なのか。
ダイアナには心から信じられる相手などいない。 女の心と男の体を持って生まれた人間を認めてくれる相手などいなかった。 だから、彼女は愛してもいない女と結婚して、名前と本来の自分を死んだことにして成り代わったのだ。 そうして、美しさを保つために殺し続けた。
古い時代の魔法と呼ばれる道具が所領の遺跡から発掘されたのは奇跡だとさえ思った。 これさえあれば、ダイアナは永遠に美しい女として存在し続けられる。
なのに、目の前のオーレリアもジェシーもそんなあり方を否定する。
美しくあろうとした努力を、女になろうとした努力を否定する。
自分がどれだけ苦痛を耐え忍んできたと思う。 女の心を押し殺してズボンをはき、恋も青春もすべて埋めて、愛してもいない女と結婚させられた自分の屈辱がどうしてわからない。