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そして、ジョージ王子が告げた言葉にオーレリアは硬直した。
「何故、それを……?」
オーレリアは知っていた。 ジェシーが革職人の娘で、子供のころに後継者がいないモルドヴァ子爵家に強引に引き取られたことをジェシー本人から聞いていた。
しかし、ジェシーはそれを軽々に他人に話すことは無かった。 当然だ。 アウローラ王国は絶対的な身分社会。 平民から貴族になったことで彼女はひどい嫌がらせにあい、そのせいで毎日泣いていたのだから。
だが、ジョージ王子はこともなげに微笑んだ。
「私には運命が見えるんです」
「何を冗談を……」
レイ中尉がジョージ王子の冗談だと考えて、今は流石に場が悪いと窘めようとしたとき、ジョージ王子は微笑んだままオーレリアを見つめた。
「オーレリア、私が何故あなたを運命の女性だといったかわかりますか? あなたは、僕が見た運命を覆した女性だからだ」
はっきりとした口調で告げられた言葉にオーレリアは背筋に冷たいものが伝っていくのを感じていた。
そして、ジョージ王子は決定的な言葉を口にした。
「あなたは、十八歳で死ぬはずだった」
その言葉はジョージ王子の運命が見えるという言葉を確証するのに十分だった。
オーレリアは真っ青な顔をして口元に手を当てていた。
今までに自分が死んだことを理解したのはヴィクトルとロラン。 二人ともに死によって巻き戻された人生を歩んだからオーレリアの死を理解したのだ。
それが今、ジョージ王子までも看破してきた。
「あ、貴方も、死んだことが?」
思わずらしくもなく声が震えるオーレリアを見ながらジョージ王子は首を左右に振った。
「いいえ。 けれど、ソフィアが結婚することが決まった時から見えていました。 ソフィアは子供を産んですぐに死ぬ。 そしてその娘も十八歳という短い生涯を終えると」
「な、何を言ってるんですか、殿下。 ロスタン嬢は今もここに」
唯一理解ができていないレイ中尉だけは動揺していたが、オーレリアは事態を飲み込むしかなかった。
「殿下、ジェシーはどこへ」
「それを言えない。 また貴方が死んでしまう」
「そうですか」
ジョージが自分のことを思って言ってくれているのは分かったが、ジェシーの居場所を聞いて自分が死ぬ運命が見えているというならば、今、ジェシーは危険ということだった。
「失礼、所用ができましたわ」
そういうなりドレスを翻しホールから出ようとするオーレリアの姿にジョージは声をかけた。