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オーレリアは少しばかり言葉に詰まった。 確かに靴やバッグを含めてオーレリアも革製品は多く持っている。 しかし、そんな技術的な分野に関してはオーレリアは本来専門外のはずだった。 オーレリアが革製品に詳しい理由は――。
「オーレリアお姉さまあ!」
不意に鈴のような声が聞こえて、ついで弾むような足音ともにふわりと桃色のドレスを揺らしてオーレリアとダイアナの前に少女が現れた。
長い金色の髪は癖がなく真っ直ぐに伸び、空色をした瞳は希望に輝き、白い肌の中で薔薇色の頬が幸福に満たされた愛らしい少女だった。 いささか背が高い彼女はオーレリアを見ると大好きな人を見つけた喜びに駆け出してきたのだ。
少女の姿にダイアナはオーレリアから身を離すと、嫣然と微笑んでいた。
「この方は?」
アウローラ王国の公用語に切り替えたダイアナにオーレリアもまたアウローラ王国の公用語で答えた。
「彼女はジェシー……モルドヴァ子爵家のものです」
ジェシーと愛称で呼んだのはオーレリアが彼女と親しいという証明だった。
ジェシーは客人がいたことに今更気付いたのか、慌てて桃色のドレスを掴んで頭を下げた。
「可愛らしいお嬢さんね」
ダイアナは嬉しそうにそのお辞儀を見るとジェシーへと挨拶をしていた。
ジェシーを褒められたことにオーレリアもまんざらでもなさそうに微笑んでいた。
実際、ジェシーを一人前のレディとして育てたのにはオーレリアの功績が大きい。 社交界に出たばかりの頃、ジェシーは友人も見習うべき貴婦人も知らず、一人でめそめそと泣いていたが、彼女が他の令嬢に絡まれているのをオーレリアが美貌の暴力で蹴散らしてから妙になつかれ、自分にまとわりつく者が二流であることを許せないオーレリアにより徹底的に教育されたのだ。
といっても今回のようにオーレリアを見つけるともう他のものなど目に入らないというジェシーの悪癖そのものはオーレリアをして矯正できなかったのだが。
「オーレリアお姉さまとは仲良くさせて頂いています」
小さなハンドバッグを肩から下げたジェシーはダイアナに対しても気後れすることなく、朗らかに接していた。
オーレリアによって他人に接するときは堂々とするよう仕込まれたことと、生まれもった朗らかで純粋な性格とがうまくかみ合った結果、ジェシーはオーレリア以上に人付き合いが上手かった。
というよりも、オーレリアのような他人を蹴散らす傾向がない分、友好的な付き合いの幅はオーレリアよりはるかに広い。
「まだまだ未熟者ですが、オーレリアお姉様を見習い、立派なレディになれるよう励んでおります」
「あらあら、可愛い妹がいたのね、オーレリアは」