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オーレリアはにこりと笑ったまま答えた。 アルビオンは古い迷信と最新の技術が同居する国。 国教がアウローラ王国とは異なり、質素堅実を旨とするカルタスの教えである以上、彼らは贅沢な装いをすることが少ないと聞かされていた。
しかし、ダイアナは少し困ったように微笑んで、オーレリアの肩へと寄り添った。
昼用のドレスとは違い、デコルテが大きく開いた夜会用のドレスはダイアナの豊満な胸元を強調し、白い肌はシャンパンの酒精によってほんのり桃色に染まっていた。
「いいえ、事実よ。 アルビオンの女たちは化粧も、眉を整えることさえ厭うわ。 だからいつまでも私たちが田舎の国と馬鹿にされていることに気付かないで」
やけに親しく自分に触れてくるダイアナにオーレリアはいささか対処に困っていた。 親戚ゆえの気安さなのか、これもアルビオン風だというのか、彼女の距離感は初対面にしては近すぎた。
オーレリアは少しだけ身を起こしてダイアナと距離を取りながら、彼女の話を聞いていた。 ダイアナは距離を取られたことを補うように、オーレリアの手に自分の手を重ね微笑んだ。
「私はソフィアがうらやましかったわ。 当時、まだアルビオンは二流国家と呼ばれていたから、最先端のものが揃うアウローラ王国へ嫁ぐことが決まった妹が妬ましかった。 何故彼女なのか、どうして私じゃなかったのか……私は彼女より美しければ私が選ばれたはずなのにと思ったわ」
ダイアナは真面目な口調で語っていたが、オーレリアはそれに違和感を覚えていた。
ダイアナは間違いなくソフィアより美しい。 それは化粧や装いなどという後付けできるものの話ではない。 顔立ちからしてダイアナは肖像画の母と違い、ぱっと人目をひきつけるような美しさを持っている。
オーレリアは居心地が悪いと感じながら、ふと、ダイアナが手にしていたハンドバッグに目を止めた。
「素敵なバッグですわね。 アルビオンは皮革産業の分野で我が国よりも評価が高いと言われていましたが、そのバッグを見れば納得できます」
淑女の装いにハンドバッグは必要不可欠。 中身はハンカチや化粧道具くらいしか入らないサイズだが、それでいいのだ。 重たい荷物や財布というものを淑女が持ち歩く必要はない。 それが示されているのがハンドバッグのサイズだ。
「……そう、ね。 いいバッグよ。 気に入りではあるわ」
話を打ち切られてしまったことに少し不満げにしながらもダイアナの視線は自分のバッグへと向いた。
その隙をつくかのように、オーレリアはさもバッグに関心があるかのような口調で話をした。
「革製品というと臭いが気になりますけれど、アルビオンの革製品はいい香りがしますわね。 香水を染み込ませてありますの?」
「ええ……アルビオンでは革に香水を染み込ませる技術が一般的で、乗馬用の手袋などもそうされているわ」
「まあ、それなら手に入れてすぐのものでも使えますわね」
「……あなた、そんなに革製品が好きなの?」
「ええと……」