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「ジョージ王子が唯一心を開いたのが十七歳になったソフィアだった。 彼女は殿下の遊び相手としてつとめ、十九歳でアウローラ王国へと渡るまで彼のお気に入りだったの。 そして、お気に入りのソフィアのことを殿下は運命の人だと言っていたそうよ」
「まあ……それじゃあ、運命の女性の娘の私も運命の相手だと?」
「ロマンチストな方でしょう? 殿下はよく運命という言葉を口になさるけれど、自分の運命の相手と言ったのは貴方で二人目だそうよ」
二人目……。 つまり、ジョージ王子にとって運命の相手というのはそれなりに重みがある言葉だったらしい。
自分の誤解を訂正しながらオーレリアは少し考えた。 自分と母の共通点とはなんだろうか?
髪の色は同じだが、それを言うならばダイアナも同じだろう。
今回ダイアナが友好使節に選ばれたのは地位とダイアナが平和のカップルであるロスタン伯爵夫妻の縁者だからだろうが、姉のダイアナは運命の相手ではなく、娘のオーレリアが運命の相手というのはどういった理由によるものかオーレリアには分からなかった。
それに第一、当時三歳のジョージ王子が十四歳であった母に心を開いたというのも分からない。 内気で泣いてばかりいた子供が心を開くには年が離れすぎているし、同性のような頼りがいもないだろう。
そして、ジョージ王子が「運命」と口にする理由もよく分からなかった。
「やはり親善大使があなたでよかったわ、オーレリア」
不意に話題が自分に戻ったことでオーレリアは少し驚いたようにダイアナの目を見た。
鮮やかな紫の瞳は意味深に潤んでいるように見えた。 同性のオーレリアをしてどきりとしてしまうような艶やかな目は、もしもオーレリアが男だったなら彼女の手の甲に口付けをさせてほしいと願うような美しさがあった。
ダイアナは上品な化粧を施された顔で柔和に微笑んで見せた。
「最初、ジョージ王子があなたを親善大使に、といった時、単純にソフィアの娘だからだろうと思われていたのだけれど、私もあなたに興味があったのよ。 アウローラ王国で一番の美女、輝石姫。 男でなくても興味があって当然でしょう」
そういって自分の肩に手を添えるダイアナにオーレリアは得体のしれない寒気を感じていたが、あくまでも笑顔で応じた。
「それをいうならば、叔母様もお美しいですわ。 アルビオンの女性は化粧に関心を持つ人が少ないと伺っていましたが、噂は噂でしたわね」