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オーレリアは確かに美しいが、美しいだけで社交界のトップでいられるわけではない。 この国の女性の中でトップクラスの教養を持っているからこそ、オーレリアは敵が多くとも信奉者も多い輝石姫でいられるのだ。
ジョージ王子とレガリア侯爵夫人がどんな話題を投げかけたとしてもオーレリアはそれに対して返答ができた。 それも元々の話題から広げる形でありながら、決して彼らを上回って出しゃばった口をきくことはない。 丁寧に彼らの話を聞いて、そういえばこんな話もありましたね、と続けてまた彼らの話に戻す。
そんな会話がしばらく続いてから、ジョージ王子は不意に、オーレリアへと問いかけた。
「あなたは運命というものを信じますか?」
オーレリアは一瞬困惑した。 運命というのは宗教的なことなのか、哲学的なことなのか。
宗教的に言うならばオーレリアにはアウローラ王国国教徒として信仰に従う義務があり、夫を持ち、子を産み、その子を一人前に育てることが運命だろう。 ならば運命とは彼女が歩むべき道筋のことだ。
だが、オーレリア自らの意思にそって考えるならば、それは一度目の死で幕を閉じた破滅だ。 王女暗殺未遂事件の首謀者として首を落とされることこそが本来の自分の運命だったといえる。
だからオーレリアは唇を開いた。
「運命を信じておりますが、それは自分の手で切り開いていくものだと考えております」
その言葉にジョージ王子は嬉しそうに微笑むと突然オーレリアの手を握った。
いきなり手を掴まれたオーレリアは何を考えているのかとジョージ王子を見つめたが、ジョージ王子は屈託なく微笑むとその愛らしい天使にも似た笑顔で告げた。
「やはり、貴方こそ僕の運命の女性だ!」
突然愛の告白めいたことを言われ困惑の色を浮かべるオーレリアを見ながら、ダイアナは口元にだけ笑みを浮かべていた。
アウローラ王国北部にあるボンベルメール辺境伯領から王都までは馬車で三日ほどかかる。 その道中では適時決められた宿での休息をとることになっており、そこでも歓迎の宴が行われていた。
ジョージ王子は北部守護戦争の英雄であるロランに話しかけていたのでオーレリアは自然と叔母であるダイアナと女同士での話になった。
「突然驚いたでしょう、ジョージ王子の反応」
「ええ……運命というものはアルビオンではよく使う言い回しなのですか?」
プライベートな話ということもあり砕けたアルビオン語で話すダイアナにオーレリアも流暢なアルビオン語で返した。