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オーレリアは気まずさを噛み締めながらも鮮やかな青いドレスを持ち上げて頭を下げた。
そして、その仕草を前にしてようやく、ジョージ王子は笑顔を浮かべた。
「初めまして、オーレリア。 ずっとあなたに会いたかった」
「光栄でございます、殿下。 ロスタン伯爵名代 オーレリア・デ・ロスタン……親善大使として微力ながら尽くさせていただきます」
頭を上げたオーレリアは王子の背後で微笑むレガリア侯爵夫人ダイアナに視線を向けた。
ロスタン伯爵邸にある母の肖像画を見たことがある。 自分の母にしては平凡な外見の女性だったが、見事な黒い巻き毛といい、乳白色の肌といい、目の前の女性は確かに母の血縁者なのだろうと実感できる。 もっとも、似ているのはそれくらいだ。
ダイアナもまた、オーレリアに負けず劣らず美しかった。 いや、人生という深みがあるからかオーレリア以上にダイアナは艶やかさがあった。 口紅を乗せた厚みのある唇は柔らかそうで、アルビオンとアウローラ王国の国旗のカラーを織り交ぜた赤と青のドレスは華やかでいかにも祝いの席に似合っていた。
細長い腕、すんなりと伸びた白い首筋、視線ひとつで異性も同性もときめかせてしまうだろう不思議な魅力があった。
「初めまして、オーレリア。 私もあなたに会いたかったわ。 ソフィアの娘ですもの」
オーレリアは母の名前が出たことで微笑みを浮かべて頷いた。
「初めまして、レガリア侯爵夫人。 私もお会いしたく思っていましたわ」
実際には物心ついたころには亡くなっていた母の故郷の人など想像したこともなかったが、わざわざそんなことを口にして友好的な空気を壊すほどオーレリアは無粋ではなかった。
ダイアナの方も別段、オーレリアが本当に母方の親族に関心があるかなど興味は無かったのだろう。 というよりも、互いに本気で関心があったなら手紙のやり取りくらいはしてそうなものだ。
母の生前はどうかしらないが、父のロスタン伯爵がアルビオンに旅行に行こうとも、アルビオンの親戚から便りが来たとも言わなかったことからして、互いに仲睦まじい両親も家同士ではさほど深い付き合いがなかったのだろうと想像がつく。
「どうぞ、馬車へ。 王都までお連れいたします」
ヴィクトルは淡々とした軍人としての表情でジョージ王子とレガリア侯爵夫人に告げて頭を下げた。
本来であれば将軍職がいてもおかしくない場だが、東部戦線の英雄が警護につくともなればこちらの歓迎の意思も伝わるものだろう。
オーレリアは親善大使として王子たちと共に馬車へ乗り込むと、穏やかに微笑んでいた。
親善大使、といっても何も小難しい政治の話などをするわけではない。 要は彼らを王都につくまでの間、退屈させずに楽しませ、かつ侮られない程度の教養があればよかった。
オーレリアはその辺りについては全く問題がなかった。 最新のオペラの話も古い神話も彼女は詳らかに知っている。 全ては父が与えてくれた一流の淑女としての教育のたまものだ。