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「な、何事だ! 何をしている!」
執事が廊下へと向かおうとし、そして青ざめた顔で部屋へと後ずさってきた。
執事に向き合っていたのは黒い軍服に身を包んだ騎士――。
「ソレイユ大佐……なんの無礼です!」
茶会で一度会ったきりの軍人が部下を引き連れて屋敷に現れたことにオーレリアは驚愕していた。 無論、オーレリアもロスタン伯爵も彼を招待した覚えなどは無い。 何よりも、パーティーに参加しにきたとは到底言えない鋭い表情でヴィクトルはロスタン伯爵とオーレリアを見つめた。
「ロスタン伯爵、貴君には所領の税収を横領した嫌疑がかかっている。 ただちに我らに随行されよ。 そして、ロスタン伯爵令嬢、貴君には別の容疑がかかっている」
織物の絨毯の上を軍靴で踏みつけながら進むとその後に続いた部下たちがそれぞれにオーレリアとロスタン伯爵とをとらえた。
青ざめた顔をする父を見ながら、オーレリアは後ろ手に腕を引かれてきっとヴィクトルを睨みつけた。
「何をでたらめを言っている! 無礼者、誰に弓をひいているのか分かっているのか!」
令嬢としての慎ましい態度ではなく、貴族として平民に対する高圧的な態度をあからさまにするオーレリアの肩を背後の兵士が強くひねった。 痛みに眉を寄せるオーレリアであったが、苦痛に声をあげるよりも先にヴィクトルへの怒りが勝った。
「薄汚い平民出身者が、ロスタン伯爵家を侮辱するか!」
「いい加減にしろ、この罪人め!」
罪人――そう告げた兵士をオーレリアは睨みつけた。 もともとが美しい顔立ちの上に気性の強さを加味した表情は歴戦の兵士をしても息を飲ませる気迫があったが、そのオーレリアを引き受けるようにヴィクトルが前へと進み出た。
「マルゴー王女暗殺未遂の容疑だ。 大人しく随行していただこう」
口調こそまだ敬意を保っているがヴィクトルの青い目には明確な敵意が宿っていた。 国家に仇なすものを撃滅することこそが軍人の本分なれば、これこそが彼の本質なのだろう。
オーレリアは怒りに満ちた目を向けながらも、せせら笑うように唇を吊り上げ、押さえつけられたまま胸を反らして顔をあげた。 平民につむじを見下ろされることなどオーレリアの矜持が許しはしなかった。
「これがお前の手口ということ……。 下衆らしい手口だわ、虫は虫らしく地べたを這いずっていればいいものを」
嘘の嫌疑であっても反逆者の拿捕をしたとなれば手柄だ。 証拠などあとでいくらでも捏造できる。 戦場を奪われた英雄が中央で飛躍するために政治を覚えたかと嘲るオーレリアに周囲の兵士は怒りを覚えていた。