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あまりに身も蓋もない言葉にヴィクトルは流石にオーレリアを黙らせようかと思ったが、その後にオーレリアは笑って付け加えた。
「顔がそれなりなら身だしなみと振る舞いで美しく見えるわ。 顔がよくないのならそれに心遣いを足すことね。 美人がやればお茶目で済むこともブスは許されない。 だけど、楽しいブスなら一緒にいたいと思うし、何よりそんな人の為なら少しくらい骨折りしてあげてもいいと思えるわ」
オーレリアくらい性格の悪い女が言うのならば、大多数の人がそうなのだろうと思える言葉だった。
ヴィクトルは呆れまじりにオーレリアを見ていたが、オーレリアの周りに集まっていた少女たちはおお、と感嘆の声をあげて納得したようにうなずいていた。
「じゃ、じゃあ、どうやったらきれいなふるまいになりますか」
再び声をあげたのはやはり砂色の髪をした少女だった。
「貴方、名前は?」
オーレリアに名前を聞かれると思っていなかったのか、少女は少しはにかんだように微笑んでから、胸をはった。
「あたし、アーニャといいます!」
目上の人間から声をかけられて縮こまらず胸を張る仕草にオーレリアは気をよくして微笑んだ。
「ならアーニャ、バレエを教えてあげるわ。 簡単なものだけど、姿勢を正し、指先まで神経を張り詰めて動くようにすれば今より見れる振る舞いになるわよ」
「アーニャだけえ?」
女の子たちが未練がましい声を上げるのを聞いてオーレリアは苦笑を浮かべた。
「見込みがあるのがアーニャだけ。 貴方たちは見て覚えなさい。 その後はアーニャが教えればいいでしょ。 どこか開けた場所はある? 床が平たいといいんだけれど」
「こっちです! こっち!」
指名されたアーニャは意気揚々と声をあげて、オーレリアの手を引いて歩いていった。
その様子を見ながら、ヴィクトルは僅かに微笑みを浮かべた。
ヴィクトルはいまだにオーレリアを測りかねていた。 自分をただの人間として対等に接する一方で、貧民窟出身者であることを忘れず、平然と「地虫」「底辺出身者」と罵るオーレリア。 間違いなく、この国の根底にある社会階級を理解し、身に沁みついているのだ。
にも拘わらず、オーレリアは孤児が自分の服を掴もうと、手を引こうと、それを振り払いはしない。 あまつさえ、オーレリアに対して胸を張る相手を気に入るのだ。
ヴィクトルが初めてオーレリアの噂を聞いたのは悪評としてだった。 傲慢で思い上がりが強く、自分自身が世界の中心だと思い込んでいるような女だと言われていた。
だが、王宮主催の茶会で初めて彼女に接してから今日までオーレリアは今まで知り合ったどんな貴族よりも真剣にヴィクトルと向き合ってくれていた。