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「ソレイユ大佐、あちらの子どもたちも貴方と話したいみたいだけど」
「ああ……そうか、どうし――」
ヴィクトルが壁際にいた少女たちに声をかけようとすると、少女たちはかっと目を見開いた。
「ちがう! ソレイユ大佐じゃないもん!」
出鼻をくじかれる形になったヴィクトルが唖然としていると女の子たちはぱっと駆け出してオーレリアの方へ近寄った。
「輝石姫だ!」
「すっごい、チラシとおんなじ顔してる!」
どうやら、少年たちの英雄がヴィクトルであれば、少女たちの憧れはオーレリアであったらしい。
無暗に恥をかかせてしまったヴィクトルと視線があい、いささかの気まずさを感じながらもオーレリアは少女たちを見下ろした。
「確かに私はオーレリアだけれど、何か用があったかしら」
自分としては貧民窟の子どもになつかれるようなことをした覚えはないし、貴族の義務ていどの慈善事業にしか参加した記憶もない。 もとより、オーレリアは誰にでも好かれる性格ではないことを自覚している。
「このドレス、どこのブティックの!」
「ばか、ちがうわよ、お姫さまなんだから全部つくらせてるのよ!」
「すごーい!」
子供特有の笛を鳴らしたような声で騒ぎ立て、自分のワンピースの裾を掴む少女たちにオーレリアは一瞬遠い目をした。
これがドレス? こんなコットンだけで作った平服がドレスに見えるくらい感性が貧しいのか、この子らは。 いや、貧民窟に住んでるような人間が本物のドレスを見られるはずがない、この程度の乏しい認識なのも仕方ないだろうと額に手をやってから、オーレリアは笑顔を浮かべた。
柔らかい笑顔だった。 この教会に残された聖母像を彷彿とさせる慈愛に満ちた笑顔に少女たちは言葉を止めた。 このままずっとその笑顔を見ていたい。 そうすれば空腹も寒さも忘れていられる気さえした。
しかし、その期待は一瞬で裏切られた。
「貴方たちのぼろ雑巾みたいな服とは違うけれど、これはドレスではないわよ」
オーレリアにしてはかなり優しく言ったつもりだったが、少女たちの側は衝撃が大きすぎたのかオーレリアを見上げたまま完全に硬直していた。
しかし、オーレリアは気にするでもなく言葉をつづけた。
「この服はブティック・アマリリスのオーナーが私に持ってきた普段着の一つ。 大した装飾は無いけれど私のサイズにぴったりと合っているし、何よりこの太めのストライプが気に入っているわ。 主張の激しい柄は本来私のように細身の人間だと似合わないのだけれど、仕立てが良いおかげで慎ましくもしっかりと主張した服になっているもの。 いい、貴方たち、美しい人のところにはね、黙っていても贈り物が届くのよ」
少女たちの疑問に答えながら、オーレリアははっきりとした口調で自分の主張を告げた。
その言葉に少女たちの一人、砂色の髪をした女の子がぴっと手を挙げた。
「どうやったら美しくなれますか!」
「顔よ!」