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輝石姫と破滅の運命  作者: 行雲流水
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3

「ヴィクトル・ソレイユと婚約ですって――!」

王都の中央近郊にあるロスタン伯爵邸で令嬢にあるまじき声をあげながらオーレリアは最近読むようになったばかりの新聞を床に叩きつけた。

「お、お、お父様……なんて置き土産を残していったのよ」

アイロンをかけられたばかりのまだ温かい新聞の第一面を飾るのは「輝石姫、不敗の英雄と婚約」と書かれた見出しだった。

先の横領事件を理由に引退、騒ぎが治まるまで静養という形で西方の神聖スパンダリ帝国へ旅行に出た父が外堀を埋める形でオーレリア本人に話を通さず、マスコミ各社に残していった爆弾ニュースにオーレリアは卒倒しそうになっていた。

「いやあ、おめでたいですねえ。 婚約披露パーティはどこでやるんですか」

横領事件の片棒を担いだ老執事が父に付き添って他国へ行ったことで急遽繰り上がり人事によって執事になったばかりの若い青年はほがらかに笑っていた。

彼はアルル。 老執事の甥っ子にあたる青年であり、幼いころから使用人見習いとして屋敷に来ていたこともあり、仕事はそつなくこなすが、どうにもまだ軽薄な印象が抜けきらないところがあった。

「やらないわよ! 大体、なんで私があの男と婚約しないといけないの!」

オーレリアが彼女らしくもない甲高い声をあげているのもアルルが自分にとって家族同然に育った幼馴染みでもあるという気安さからだった。

オーレリアはヴィクトルと隣あって微笑んでる自分の姿を想像するだけで怖気がはしるとばかりに肩を抱きしめ、溜め息をついていた。

「とにかく……婚約を破棄しないと。 幸い、まだ正式な手続きはなにもされていないし、あの男の方だって私との婚約は嫌でしょう。 はやく軍部に馬車を回して、あちらに話をつけに行くわよ」

オーレリアはそういうと侍女を呼びつけ、昼の訪問のための簡素なドレスを用意するように頼んでいた。

オーレリアからすればヴィクトル・ソレイユは仇敵と呼んで差しさわりない。 一度目の生において自分を破滅に追い込み、首を断ち切った男だ。 確かに彼は誠実で理想的な軍人だが、以前の王女暗殺未遂事件の顛末が発覚したときに奴の本性は見ている。

例え王族であろうとも、あいつは悪とみなした相手を殺すことに躊躇いがない。

それは正義の執行に見えるかもしれないが、その実は真逆だ。 悪を廃滅するための絶対的な暴力装置。 それが意思を持ち二足歩行しているおぞましさは尋常ではない。

もしもヴィクトルに悪とみなされたならば、どれだけあの男と親しい間柄であろうと殺されるという確信があった。

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