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「これ、持っていけ」
差し出されたのは古新聞でぐるぐるにくるまれたものだった。 大きさは両手で抱えられるくらいのもので、皮なめし工房のつんと鼻につく臭いがしていた。
父と分かれて馬車に一人で乗せられた私は膝の上に包みを乗せて窓の外を見た。
ずっとすごしてきた職人横丁からどんどん離れて、街並みは綺麗で見知らぬものに変わっていった。
綺麗に整えられた街並みはどこも無個性で、店の前で客を呼び込む人や歩いてものを売る人などまるでいない場所に変わっていって、私は胸の内に鉛をかかえた。
窓から目をそらして、私はようやっと膝の上の包みに目をやった。
父は一体何を私にくれたのだろう。 せめて手紙のひとつも入っていればうれしいのに、そう思って新聞をめくり、私は息を飲んだ。
それは革製のハンドバッグだった。 肩から下げるための細いベルトがついた、バッグは細やかな細工が施されていて、染色のされていない生の革の色が浅く色づいた頑丈そうなバッグ。 留め金の部分は真鍮でぴかぴかと金色に光っていた。
そして口を開けると裏側には父からのメッセージが刻まれていた。
父はずっと、この一週間、私にこのバッグを作ってくれていたんだ。
生まれてからこれまで、一度も父が作ったものを私は手にしたことは無かった。 それは父の作品は全部、他の誰かのために作られたものだったからだ。
私はそのバッグを抱きしめて、馬車の中で泣いた。 このバッグがあれば、私はずっと父と一緒にいられるのだと涙を零していた。
武骨で、何も言わない、私に最後まで笑いかけてくれなかった父がくれたハンドバッグは私の宝物だ。
だから、私はなにがあってもこのバッグだけは手放しはしない。