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「それで、お兄様。 おみやげは?」
ふふ、と口元に手をあてて上目遣いにみてくるアシュリーに肩をすくめてから、レイは手に持っていた大きめの紙箱を渡した。
「約束通り、王都のブティックで買った帽子だよ。 つばが大きいからぶつけないように気をつけるんだよ」
「わあ、ありがとうお兄様!」
「姉さまも、帽子でよかったよね? ラルジェントの……」
「ありがとう、うれしいわ」
「父上と母上の分はいま部屋にもっていってもらっていますから」
「私たちの分はよかったのに」
姉と妹の機嫌がとれて一安心していたレイだったが、不意打ちのように背後から使用人が飛び込んできた。
「わ、若様! 贈り物が届いています……」
「贈り物? 誰からだ」
「そ、それがですね……」
下男は少し困惑した表情を浮かべながら大きな包みにつけられた封蝋の家紋を見せた。
「ロスタン伯爵家!」
紋章を見たレイは思わず声をあげてしまい、しまった、と自分の口を押えたがもはや遅かった。
「ロスタン伯爵家って、あの輝石姫の!」
「なに、お兄様、輝石姫とお友達なの?」
王都に憧れが爆発している姉と妹はもはやレイが手渡したお土産などそっちのけで輝石姫から届いたという荷物に注目していた。
レイは冷や汗を浮かべていた。 もしこれで贈り物が自分単体へのつまらないものに過ぎなければ姉や妹はどう思うことか。 いや、逆に過度に贅沢な品を贈られても困るが。
そもそも、レイは先の王女暗殺未遂事件でも多少彼女の調査を手伝ったという部分はあったが、それ以上の親しみを持たれるようなことはしていないはずだった。
「レイ、早く開けて! 何が届いたの!」
「そうですよ、お兄様。 早く見せてください!」
わあわあと甲高い声で叫ぶ姉と妹に押されるようにして封をとくと中には紙箱が二つ入っていた。 それぞれどこで調べたのかアナベル、アシュリー宛、とあり、レイ宛のものは手紙が一通あるばかりだった。
「こ、これは姉さまに。 こちらはアシュリーにだそうだ」
「輝石姫から私たちへ!」
「あなた、本当に輝石姫とどういう知り合いなのよ!」
きゃーと頭に響く歓喜の叫び声と共に包みを受け取った姉と妹が取り急ぎ開いていくと、姉のアナベル宛とあった包みからは白い木綿のドレスが出てきた。
「そ、そのドレスはあの女が着てた……!」
忘れもしない、釈放の日にソレイユ大佐の足を踏みつけて去ったオーレリアが着ていたドレスだ。