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そんなことを考えて荷物を担ぎながら家の門をくぐると、すぐに子供のころから世話を見てくれていたメイドが飛んできた。
「まあ、若様おかえりなさいませ! ご立派になられまして」
「ただいま、マーサ。 父上たちは?」
「旦那様たちは中でお待ちになっていますよ、さあさあ、お疲れでしょうから、荷物は私たちにおまかせくださいな」
最近雇ったと聞いていた下男がよく日に焼けた顔にいくらかの緊張を帯びた笑顔を浮かべてやってくるのを見ながらレイは微笑んで、姉と妹以外の土産を彼に任せた。
「マーサや君らにもお土産があるんだ。 後で受け取りにきてくれ」
「ええ、それはまた、ありがとうございます」
驚きながらも嬉しそうに笑う下男が荷物を持っていくのを見ながらレイは玄関へと入っていった。
出兵した時となんら変わらない。 母が作ったパッチワークや刺繍が飾られた玄関には家族の肖像が一枚あるきり金のかかった装飾は無く、代わりに近くの森でつんできたのだろう野の花が飾られている。
そんな素朴な我が家に落ち着きを感じて微笑むとレイは家族団らんの場であるリビングへと向かって歩いていった。
王都にある大貴族たちの屋敷のような洗練された芸術や高価な宝飾品などはないが、穏やかな空間がある実家の空気はレイにとってささやかな自慢だった。
そしてレイがリビングの扉を開いた瞬間だった。
「おかえりなさい、お兄様!」
飛び出してきたのは十四歳になったばかりの妹のアシュリーだった。 若草色をした生地に小さな花の模様がたくさん入ったワンピースを大きく広げて自分の元に飛び込んできたアシュリーを抱きしめ、レイは微笑んだ。
「おかえりなさい、レイ。 王都でのお勤めご苦労様」
優しく微笑む母と片手にパイプを握った父が目を細めてレイを見つめていた。
「おかえりなさい、王都はどうだったの?」
ピアノの前に置かれた背もたれのない椅子に座っていた姉のアナベルは鮮やかな空色のワンピースを手でたぐりながら振り返り、柔らかな笑顔を浮かべていた。
「前線の方が僕にはあってたよ。 安全だけど、腹のさぐりあいばかりで気疲れが多い」
「上手くやれているのか?」
「もちろん。 ソレイユ大佐の副官に任命されたんだから、みっともないところは見せられないよ」
父から心配するように掛けられた問いにレイは力強く自分の胸板を叩いて答えた。