2
何をどう考えても理解ができない生活習慣を持っていたロスタン伯爵令嬢オーレリアのことを思い出してレイ中尉は髪の毛をかきむしった。
尊敬するヴィクトル・ソレイユ大佐の手を平然と踏んで立ち去ったのも腹が立つし、思い返せばあの女、会うたびに腹の立つことをしでかしている気がする。
レイ中尉は一度深呼吸をすると、そのままふーと息を吐き出して座席の背もたれに背中を預けた。
やめよう。 あのクソ女の事を思い出すのは。
それからレイ中尉は尊敬するヴィクトルのことを思い返した。 今回の事件でもやはりヴィクトルが真摯に事件に向き合ったことで真相へとたどり着けたのだ。
王族暗殺未遂事件だというにも関わらずまともに調査する気があったのがヴィクトル率いる軍部の人間だけであったことからしてもこの国の中央がどれだけ腐敗しているかレイの目からでも見てとれた。
その中で上からの圧力も自分に降りかかる責任の重さも気にすることなく、ただ真剣に正義の追求だけをなしとげたヴィクトルの姿勢にレイ中尉は胸が熱くなるのを感じていた。
思い返せばヴィクトルと初めてあったのはまだレイ中尉が初めて戦場に立った少尉の時であった。
そのころ、まだ中佐であったヴィクトルと共に前線をかけた時に見た活躍は彼が戦場を離れ、中央に連れてこられた今となっても変わりなかった。 彼の隣に立てることがレイにとっての栄誉であり、彼の補佐をすることこそが喜びだった。
そして、いつかはヴィクトルと並び立つ副官として彼に――。
レイ中尉がそんな妄想をしている間に汽車は彼の実家のの領地につき、停車していた。
背中に自分の着替えなどの入ったリュックを背負い両手いっぱいの土産物を抱えて汽車から降りると辻馬車を拾って実家へと帰った。
実家――シュラント家は地方貴族としてはそれなりに裕福な資産を抱えている方だ。 農作物のできも安定しているし、民衆からの不満などもなく領民からは信頼をもって接してもらっているし、父も横領などという悪事とは無縁に誠実に経営をしている。 結果として、実家は生活するには十分ではあるが贅沢をするには少々物足りない、といったところだった。
そうはいっても姉と妹が嫁に出る以上、彼女らの持参金を考えて贅沢は控えねばならないのだが、当の本人たちが王都のブティックで出た新作のドレスが欲しいだの、化粧品が欲しいだのというのだから、側にいる父たちは頭が痛いことだろう。