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先を進むロランに続く形で歩きながらオーレリアは静かに息をついた。 隣を歩いているヴィクトルは先ほどとは違いゆっくりとした足取りではあるが、表情は非常に厳しく、明らかに納得していないという風な表情であった。
庭から差し込んでくる日差しが眩しくて目を細めながらオーレリアが歩いていると、庭園へと出た辺りでロランが立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。
「さて……と。 流石に裁判もなしに人を殺させるわけにはいかなかったものでな」
一度ヴィクトルを見上げてから微笑むとゆっくりと咳払いをして、ロランは二人に微笑みかけた。
「改めて挨拶しよう。 私はボンベルメール辺境伯ロラン・ド・シモン。 しがない退役軍人にして地方貴族に過ぎない身だ」
「私はロスタン伯爵の娘、オーレリアと申します」
「私は陸軍第八大隊隊長ヴィクトル・ソレイユ大佐であります」
元とはいえ軍人として尊敬すべき先達の前で聊かかしこまった口調になりながらヴィクトルは真っすぐにロランを見据え、その人となりを見極めようとしていた。
ロランの側はぶしつけともいえるヴィクトルのその視線を不快に思うでもなく、好々爺然とした穏やかな笑顔をしたまま、穏やかに微笑んでいた。
「さて……君たち二人に聞きたいことがあるのだが」
「私たちにですか?」
ロランからの申し出にオーレリアは目を丸くした。 どちらか片方への質問、というのならばわかったがオーレリアとヴィクトル。 貴族の令嬢と平民出身の軍人との間での共有事項など今回の事件についてだけだ。 マルゴー王女の狂言、とわかった以上この暗殺未遂事件について何の質問があるのだろうか、と小首をかしげてロランを見上げた。
しかし、ロランからの質問はこの事件に関するものであったが、本質としてはそうではないものだった。
「君たちは一度死んだことはあるかい」
「!」
穏やかな口調での問いではあったがその内容にオーレリアは息を飲み、ヴィクトルは無言のまま進み出てオーレリアの前に立ち、ロランの視線を遮るようにした。
その反応をみて確信を得たようにロランは深くうなずくと笑顔のままに言葉をつづけた。
「一度目は三十年年ほど前に。 そして二度目はつい最近。 私以外の人間が死んで時間が巻き戻ったことが観測できた」
「……辺境伯。 確かに俺は一度死に、戻るかたちで未来を変え、ここに立っています。 しかし、それを察知できた人間はいままでいなかった。 貴君は一体何を隠し持っている」
「隠し持っている、というほど大袈裟なものではない。 今は廃れて久しいが、古い時代に魔術というものがあったのは歴史の授業でも聞くだろう」