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けれど、オーレリアはこの令嬢のことはさほど好きではなかった。
身分が低い上に最近になり事業がうまく行きだした成り上がり貴族、ならばそれらしく大きな顔をしていればいいというのに、シャーリーはいつも他人の顔色を窺っておどおどとしている。 折角、愛らしい顔立ちをしているのに背中を丸めているせいでいつも本人の表情がまともに見えた試しがない。 話をしていてもいつも視線がきょろきょろと動いているせいでその話が楽しいのか、居心地が悪いのか相手には何も分からないのだから失礼もいいところだ。
マルゴー王女を中心にここに集められた貴族たちは高位の貴族の娘が多くいたがその中でシャーリーは少し浮いていた。 本人もその自覚があるのか、いつもより背を丸めて、床をじっと見て話しにも参加できていないようだった。
「まあ、王女様。 こちらのリボンはシルクですか?」
「素敵な刺繍ですわね、一体どちらの職人が?」
マルゴー王女の髪を飾る艶やかな金色のリボンを見ながらリリアーヌたちは声をそろえて褒めたたえていた。 それは羨望、というよりはお世辞、というものに分類されるもので、とにかく王女の耳に入るように令嬢たちは声高に口を揃えて彼女を褒めていた。
オーレリアは末席近くに座っているだけにほとんど内容にかかわることはできなかったが、特に話に関わる必要も感じなかった。
あのリボンはレンスの特産品の絹を輸入品の花で染め上げたもので、刺繍は同じレンスにあるガヴァネット女子修道院のものだ。 レースで有名なガヴァネット女子修道院ではあるが伝統的な刺繍模様はオーレリアにとって一目でわかるものだった。
確かに見事なものだけれど、ああも口々に褒めたたえたのでは逆に嫌味にもなりそうだが、マルゴー王女は自分の持ち物を他人に褒められることに満更でもない笑顔を浮かべて無邪気に応えていた。
アウローラ王国第位一王女マルゴーは国王が老いてから生まれた唯一の王女として溺愛されていた。 大抵のことは彼女の望むままになり、身に着けるものもこの国で最も優れたものばかり。 そうなればマルゴー王女が増長するのも当然の事であり、自明の理であった。
オーレリアはマルゴー王女のことは気性が合わないとは思っていたがそう嫌いではない。 何しろ彼女は自分がこの世の中心だと思っているし、それでご機嫌に生きている。 自分を楽しませることに長けている、というのは他人にすべてをゆだねるような人間よりもよほど好ましかった。