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淡々とした口調で告げながらヴィクトルはちらりと青ざめているマルゴー王女の方を見た。 周囲は彼女が命を狙われた恐怖を思い出して青ざめているのだろうと考えていたが、ヴィクトルは眉根を寄せていた。
「また、ロスタン嬢が王宮に来ていた、という証拠品として提出されていた写真ですが……捏造であることが証明されました」
はっきりとした口調で告げたヴィクトルはそのまま国王の顔を真っ直ぐに見上げた。 本来であれば国王の顔を見据えるなど不敬もいいところであったが、平民出身のヴィクトルにはそのような礼節は知る由もなかった。
「方法は実に稚拙で、マダム・フォンターヌの店のパンフレットに使用されたロスタン嬢の写真を切り抜き、別の写真の上に張り付けたものを印刷しただけでした。 画家や写真家に写真を見せたところ、他の令嬢たちと明らかに違う場所で撮影された写真だという証言が集まりました」
「そ、それではロスタン伯爵令嬢に罪を着せた者がいると」
ゴーチェ三世は一度せき込み、自分の口元に手を当てていた。 娘の暗殺に伴って国一番の美女と名高い輝石姫が陥れられようとしたという事実に狼狽していた。
元より自己での判断力に乏しく、政治に対しても積極性の薄い国王としては、ただオーレリア一人が断罪されて済む方が楽な話だったことだろうが、ヴィクトルには正義の追求のためであればあらゆる手を尽くすべきだという信念があった。
「左様でございます、陛下。 王女殿下に渡されたドレスはロスタン伯爵令嬢が持ってきたものではなかった。 そしてそもそもロスタン嬢は王女殿下の茶会にも来ていなかった……当日、彼女は自宅で靴職人と会っていたという証言もあります」
「ま、待て……しかし、それでは」
国王はヴィクトルが淡々と言葉を述べていくのを見ながらついに思い至ったかのように自分の口元に手を当てた。
ヴィクトルは静かに一歩進み出ると青ざめて俯くマルゴー王女の前に出た。
マルゴー王女は何かを口にしようとしたが、言葉にならなかったのか頭を振って自分の手を握り締め、うっすらと汗が滲む額に髪を張り付かせたまま硬直していた。
その時、オーレリアは慌てて声を上げた。
「畏れながら。 この事件はあまりにも深刻でございます、陛下! どうか無関係のものたちをこの場から下がらせてください」
「う……うむ、そうだな。 ロスタン嬢の言う通りだ。 皆、この部屋から出てくれ」
本来であれば目下であるオーレリアから国王へ進言をするのは不敬であったが、今はそれ以上の緊急事態だと判断し、オーレリアは焦りを滲ませて国王へと声をかけることでヴィクトルを制止した。