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「ちょっと、どこへ向かうつもりよ! お前、私が拘禁されている立場だと分かっているの!」
声を荒げるオーレリアの腕を引きながらヴィクトルは大股に歩いていた。 背丈の違いの差もあり、ヴィクトルが急いで歩くと自然とオーレリアは小走りになる状態になっていたがヴィクトルはそれを気にも止めず、迷うことなく王宮の通路を進んでいた。
一番広い通路に行き当たった瞬間、オーレリアは息を飲んだ。
「待ちなさい! その先は……」
通路を突き進むヴィクトルは制止しようとするオーレリアを真逆に引き寄せて、彼女の体をとらえながら通路の左右にいる衛兵を退かせ、大扉を開いた。
その先にあったのは玉座に連なる開けたホールだった。
「何事だ」
ホール全体に響く低い男の声にとっさにオーレリアはスカートの端を持ち上げて頭を下げた。 緋色の絨毯の続く先にいたのは国王ゴーチェ三世。 そして居並ぶのは高位の貴族と官僚たちだ。 オーレリアは粗末なワンピースでこのような国の中枢である場所にいることに眩暈を覚えていたが明らかに場違いであるはずのヴィクトルは真顔のまま声を張り上げた。
「この場への無礼の訴求は後程受けさせていただきます。 今はそれよりも、マルゴー王女暗殺未遂事件に関し、重要な証言が加わりましたことを報告に上がりました」
ヴィクトルの言い放った言葉に周囲の貴族たちも息を飲み、動揺がさざなみのように広がっていった。 王族暗殺未遂事件でオーレリアが逮捕されたのが一週間ほど前、それならば調査の進展があったということかと周囲は互いの顔を見合わせた。
国王ゴーチェ三世は深い皺の刻まれた顔に驚愕の色を浮かべたまま、軍服姿のヴィクトルと平民が着るような簡素なワンピースだけを身にまとったオーレリアとを交互に見ていた。
ヴィクトルは周囲の目線を気にすることもなくそのまま真っ直ぐに国王のすぐそばに佇んでいたマルゴー王女を見据えた。
「王女殿下に届いたというドレスの持ち主が見つかりました。 あのドレスはロスタン嬢が用意したものではなくレイリー男爵令嬢のものだったようです」
「な、なんと、あのような下級の貴族がマルゴーに敵意を持っていたというのか」
国王は自分の愛娘が命を狙われた事件の関係者が増えたことに驚いていたが、マルゴー王女の方は青ざめて自分の口元を押さえていた。 王女は口元を抑える手の爪が白くみえるほどに緊張しきり、視線は落ち着きなく辺りを窺っていた。
「いいえ、レイリー男爵令嬢はドレスを人に頼まれて貸しただけで、このような事件に利用されるとは予想さえしていなかったでしょう」