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捕縛されてから一週間ほど経った頃、オーレリアはヴィクトルに連れられて地下房から法務局の取調室へと連れてこられていた。
窓ガラスのはまった扉から見えた人物の姿にオーレリアは口元に手を添えて驚いていた。
「シャーリー!」
ヴィクトルに伴われ室内に入ったオーレリアを見るなり、シャーリーはガラス板をこすり合わせるようなか細い声を上げた。
「あ……あ、あの……オーレリア様……」
今にも卒倒しそうなほどに青ざめた顔をして背を丸めながらシャーリーは取調室の木製の椅子の上で膝に手をおいて震えていた。
「こんなところで何をしているの」
「あ、あの……私、そんな……こんなことになるだなんて」
真っ青に青ざめた表情で手を顔の前にやり震えている姿はあまりにも弱弱しく、オーレリアは若干苛立った。
シャーリーの大人しいところは男性たちにすれば守ってあげたいようなか弱さを感じているのだろうが、オーレリアからすれば自分の意見を口にもできないまともにしゃべれないような女はいちいち手を貸してやりたいとも思わない相手だ。 できることなら自分の道の前におらず、さっさと脇に避けて黙っていてほしいところだった。
しかし、ここにきている、ということはシャーリーが今回の事件に関わっているということだろう。
少し考えてから、シャーリーをみてオーレリアは気付いた。
「貴方……猫背、ね」
いつもびくびくと背中を丸めてばかりいるからかシャーリーの背筋は猫背になっていた。
「レイリー男爵令嬢、貴君がこのドレスの持ち主だな」
机の上に広げられたのは王女に贈られたという白いドレスだった。 確かにこのドレスの持ち主は猫背だといったが、まさかシャーリーが持ち主だとはオーレリアは思っていなかった。
第一にシャーリーのように気の弱い少女が王女の暗殺未遂に加担するなど想定さえしなかった。
「私、こんなことになるなんて思わなかったんです……ドレスは貸してほしいっていわれただけで……お、王女様の暗殺未遂に使われるなんて」
「貸してほしいって誰に言われたのかしら」
「そ、それは」
ひっと喉を鳴らして項垂れるシャーリーを見下ろしながらオーレリアは酷薄な笑みを浮かべて、彼女の白い肩に軽く手を添えた。 家から連れられてきたのだろうシャーリーは濃い緑のドレスを身に着けており、捕縛されてから平民が着るような木綿のワンピースばかりを身に着けているオーレリアよりもよほど綺麗に装っていたが態度の違いから、二人の令嬢のうち、主導権をどちらが握っているかは明白だった。