25
夜間には流石にオーレリアは独房へと戻されていた。 暗殺未遂事件の首謀者と言われている状態で檻の外に長時間出しているのはオーレリア自身のためにならない、というヴィクトルの意見だったがオーレリアもこれには素直に従った。
外に出るならば自分の身の潔白が証明されてからだ。 オーレリアはそう決めていた。
レイ中尉は自分の職務もあるということで房に戻る時には散解していたが、ヴィクトルは格子の扉に施錠をしてから、鉄格子を通してオーレリアを見つめていた。
「前と同じことを飽きもせずやるつもり?」
オーレリアは溜め息交じりにヴィクトルを見上げた。 なるほど黙ってさえいれば、自分の審美眼をもってしても美しい、といえるだけの整った顔立ちをしている。 もっとも性格が融通の利かない馬鹿ではオーレリアの好みからは大きく外れていたが。
しかし、オーレリアのそんな思考を遮ってヴィクトルは唇を開いた。
「お前は、俺に殺されたことがあるか」
短く。 けれど、その言葉にオーレリアは目を見開いて鉄格子に手を伸ばした。
「お前、なぜ分かるの」
昼間はほとんど初対面だと言っていたにも関わらず、急に自分に殺されたことがあるか、と問いかけてくるヴィクトルが理解できず、オーレリアは黒い二つの瞳で射貫くようにヴィクトルを見つめていた。 その瞳はどこまでも磨き上げられた黒曜石のようにきらめき、大きな瞳にはただヴィクトルの姿だけが映り、他の何もそこには入り込まなかった。
「まさか、俺の他にそんな経験をしている人間がいるとは思わなかった」
告げられた言葉にオーレリアは息を飲んだ。 東方戦線の英雄、不敗神話の主人公が殺されていたなど誰が信じるだろうか。
そして、オーレリアもまた自身がこの奇妙な二回目を経験していなければ、ヴィクトルの言葉など失笑していたような内容だった。
「俺が死んで戻ったのは貧民窟にいた頃……八つの頃だ。 当時、悪質な貴族が貧民窟の子どもを浚っては嬲り殺していた」
「……エドゥラの吸血子爵ね」
オーレリアもその事件は聞いたことがある。 篤志家として貧民窟の子どもたちに多くの贈り物をしていた子爵がその子らを屋敷に招き、拷問や凌辱をして楽しんでいたという事件だ。 事件についての詳細は知らないが当時の事件についての小説も出る程ショッキングなものだったことは知っている。
「そう。 そして、俺もその犠牲者の中にいた」