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輝石姫と破滅の運命  作者: 行雲流水
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驚いたような顔をするヴィクトルに自分の矜持を損なわれたように感じたのかオーレリアは眉をひそめて怒りを向けた。

「すまない。 確かにそれはセルシアの工房で作られたものだ。 紙箱は別の店のものだったが」

「紙箱はマダム・ラセーヌよ。 ここの工房は女性の縫子が多くて繊細なビーズ飾りがついているのが特徴的ね」

すらすらと語りながらオーレリアは手にしていたドレスを軽く自分の体に重ねてみた。 オーレリアが着るには少し丈が足りないし、腰回りが広すぎるように感じる。

「……マルゴー王女は私よりも背が高いわ。 それに、あの方は胸元が豊満なのを強調したがるから、腰はもっと細く作らせたほうが喜ばれるでしょう」

「それがどうかしたのか」

「どうかしたのかですって? この私が、相手に似合わないドレスなんて用意するわけないでしょう! 大体このドレス、既製品じゃなくて仕立てた品よ! それも王女様のサイズじゃなく、別の誰かのサイズでね」

「そ、それは……このドレスが完璧にあう女性がいたとしたら」

「このドレスの本当の持ち主でしょう」

多くの客の体格にあうように作られた既製服と違い、仕立服は完全にその人のためだけのサイズで作られる。 アームホールのように直接的な動作に関わる部分だけではなく、その人物の骨格、仕草の癖、これからどの程度体型が変わるかなども計算されつくして作り上げられるのだ。 だから、仕立服はどれだけ体格が近い人間が来たとしてもぴたりと沿うのは持ち主以外に存在しない。

ドレス一着で本当の暗殺未遂事件の首謀者に辿りつけるかもしれない、その高揚感に口元を抑えるレイ中尉を背にしたまま、ヴィクトルはじっとドレスを身に着けたオーレリアを見ていた。

「……しかし、まさか貴族の令嬢たち全員にこのドレスを着ろと回るわけにもいくまい」

そうなのだ。 王女暗殺未遂の証拠品を手にこれを試着しろ、というのは「お前が真犯人か」と聞いて回るのに等しい。 マルゴー王女と親しい令嬢たちの中にはリリアーヌをはじめ、高位の貴族たちも多くいる。 彼女らの怒りを買えばそれこそ調査そのものが打ち切られる可能性がある。

しかし、こともなげにオーレリアは微笑んだ。

「工房に採寸表も領収書もあるはずよ。 それをみればどこの誰がこのドレスを注文したかなんてすぐわかるじゃない」

例え注文主とドレスの持ち主が違っていたとしても採寸表は持ち主を指し示す。 オーレリアは優美に微笑んでみると興味を失くしたドレスをヴィクトルの手に預けた。

「そのドレス、背中側の裏地に工夫がしてあったわ。 背筋が伸びるように固い生地と柔らかい生地とが組み合わさっているの。 そのドレスを着てた令嬢、相当な猫背なのかしら」

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