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ヴィクトルが問いかけると少し考えるように頬をかいてから画家は再び王女たちとオーレリアを指で交互に示した。
「王女様やこっちのお嬢さん方はほんの少しですけど輪郭がずれているでしょう。 これはカメラが光を取り込んでいる間に身じろぎしたんで像がぶれて記録されたんですよ。 ですが、こっちのお嬢さんだけは全く輪郭がぶれてない。 例えばこれが動かない絵だったらつじつまが合うんですが、他のお嬢さんたちが話したりして動いてる中、この人だけは息も瞬きも全部とめて澄ました顔をしてるなんておかしいでしょう」
言われて見比べれば確かにごくわずかだが像がぶれている他の令嬢たちに比較してオーレリアだけはくっきりと映っている。
「ならば、ロスタン嬢の写真だけを切り取って手前に置き、一緒に撮影すればどうだ」
そのヴィクトルからの言葉にレイ中尉とオーレリアは目を見開いた。 確かにオーレリアだけは別の写真から切り出されていたのならば光源がおかしいということも、輪郭にぶれがないという指摘もすべてつじつまが合う。
しかし、画家はそれにも困ったように眉を寄せていた。
「私も写真はプロじゃないんでなんとも言えませんが……手前に写真を置いて撮影するとなると写真の方がよほど大きいか、さもなきゃカメラによっぽど近くないと人間並みに大きく撮影できませんよ」
どちらもあまり現実的とは思えなかった。 カメラは焦点となる部分から遠ざかれば遠ざかるほど画像がぼけていく。 オーレリアは輪郭がくっきりしているとはいえ、中央の王女や他の令嬢たちとそう変わりなく撮影されているのだから小さな写真を手前に置いていたとは思えない。 かといってパネルのような大きな写真を使うとなるとそれこそ引き伸ばされて像が滲みそうだ。
だが、オーレリアは一つ、思いついたことがあった。
「……思い出したわ、この写真」
画家の手の中にあった写真をさっと取り上げると、その写真に写る自分の横顔を見てオーレリアは呟いた。
「これ、ドレスの宣伝パンフレットに使うために撮影された時のものよ」
一度着たきり人にあげてしまう程度に思い入れのないドレスだったし、撮影もよくあることだったからすっかり忘れていた、というオーレリアにレイ中尉はこめかみに青筋を浮かべていた。
ヴィクトルは画家に礼を述べてから改めてオーレリアへと向き直った。
「そのパンフレットを取り寄せるぞ」
「写真が同じならロスタン嬢がその場にいたことを捏造したという証明はできます……けれど、他の写真と撮影できないことは先ほどから」
どうやってオーレリアと他の令嬢が一緒にいるように撮影できたのか、その手口が分からない。 そう言うレイ中尉にヴィクトルはゆるやかに首を横に振った。
「その手口に俺は心当たりがある。 非常に不本意ではあるがな」
驚いた顔をしているレイ中尉を気にも留めず、オーレリアは写真を手にしたまま踵を返すと馬車へ向かいだした。
「どこへ向かうつもりだ」
「まだ私が見ていない証拠品があったわ」
そう告げるオーレリアを追ってヴィクトルとレイ中尉も共に馬車へと乗り込んだ。 向かった先は今回の事件の証拠品を管理している司法局だった。