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「そうそう、王女様がオーレリアをお呼びよ、行きましょう」
スカートの裾をひらめかせて先導するように花壇に沿って作られたレンガの通路を歩きながらオーレリアは目を細めた。
白い大理石の彫刻に囲まれた東屋は白く華やかだった。 そして、おそらくは警護のためだろう濃い青の礼装に身を包んだ騎士たちが何人か東屋前に立たされていた。
リリアーヌに続いて東屋へ入ろうとしたオーレリアは東屋の中央でこの国の第三王女の前に立たせれている騎士に気付いた。 濃い青のコートの肩に緋色のラインが縫い付けられ、そこに銀の金属糸で刺繍されているのは大佐の階級章だ。 警護の責任者、にしては少々階級が高すぎるように思えた。
オーレリアとリリアーヌは共に王女の視線に入る位置に立つとスカートを持ちあげて広げながら頭を下げて礼を取った。
王女は華やかな金髪に色の濃い栗色の目をした愛らしい顔立ちに笑みを浮かばせて二人を歓迎した。
「あら、よく来たわね。 ラリッサ嬢リリアーヌ、ロスタン嬢オーレリア」
「ご機嫌麗しく、王女様」
「お目にかかれて光栄にございます、マルゴー殿下」
身分の高い王女の側から声をかけられたことでようやっと顔を上げるとオーレリアはちらりと周囲を見回した。
周囲にいるのは年齢が王女と近い美しい令嬢たちばかりであり、その中に軍人が一人招かれている、というのはなんとも奇妙な構図のように思えたがマルゴー王女は平然としていた。
「挨拶をなさい、ヴィクトル」
「……はい。 私は王国陸軍第八大隊隊長ヴィクトル・ソレイユ大佐でございます」
男は武骨な印象を与える美男子だった。 鋭く光る青い瞳に鼻筋がしっかりとした精悍な面立ち。 黙っていたっていれば彫刻のようにも見える美貌を騎士たち揃いの軍服で包むその姿はストイックな魅力があり、逞しい体格と相まって男らしい印象を与えるのに十分だった。
黙って立っているだけでも令嬢たちの中には彼の姿に熱い眼差しを送るものがちらほらと見えていたが、このように女性たちが集まっている中で一人だけ彼に私的に声をかけるというのはどうにもはしたないように思われそうで、結果としてお互いに牽制しあう形になっていた。
だが、ヴィクトルは愛想笑いさえ浮かべていなかった。 固く整った表情を微塵も崩さず、ただ佇んでいた。
「ソレイユ大佐……東方戦線のですか?」
「ええ、そうよ。 活躍ぶりを見込まれて中央へと帰還し、士官となる栄誉を得たの。 東方の英雄ね」