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眉根を寄せるオーレリアと額に手をついて考えるようにするヴィクトル、そして目の前の浪費家をどうしてくれようかと真っ赤な顔をしているレイ中尉という奇妙な三人の構図ができあがっていた。
「私が着たドレスってすぐに皆が真似をするでしょう? 半年もしたら似たような型のドレスを着てる令嬢が多くいるし、中には似合いもしないのに同じ生地で仕立てる者までいてね……ドレスが被ってたりしたらいやじゃない」
「そんな理由で、こ、こんな高級なドレスを使い捨てに……」
「捨ててないわよ。 欲しいって人に売ってあげたり、後はそうね親しい相手なら譲っているわ。 このドレスを譲った相手だって覚えてるもの……ジェシーは背が高すぎるからもうこのドレスは似合わないかもしれないけど」
「……一つ、聞きたいのだが」
それまで沈黙し、額に手を当てていたヴィクトルがようやく口を開いたことでオーレリアは自然とヴィクトルへと視線を向けていた。
「貴族令嬢というのは、誰もがそのような浪費を当たり前にしているのか?」
ああ、そういえばこの男は平民出身だったか、と今更思い出したように考えてオーレリアが言葉を失っている間にレイ中尉がオーレリアとヴィクトルの視線があうのを阻むように鉄格子の前に身を滑り込ませた。
「違います! ヴィクトル大佐! こんな頭悪い浪費の仕方をするのはこの女だけです! 神にかけていえますが、そんな無茶をすればたとえ王族といえども破綻します!」
「言っておくけど、ドレスだって毎回買ってはいないわよ。 私、美しいから。 私が着れば宣伝になるってどこの職人もドレスをこぞって持ってくるのよ」
オーレリアは嘘は言っていなかった。 確かに特別な日のドレスは都度仕立ててはいたが、多くのドレスは親しい人間からの贈り物か、もしくはブティックの経営者がぜひ着てほしいと持ってくるものであり、そのせいでオーレリアの服の採寸表は王都のすべての仕立て屋で共有されているのだ。
あまりにも桁違いの世界の話に言葉を失ったのか、青ざめた顔をしたレイ中尉はオーレリアを振り返って口をぱくぱくと動かしていた。
「このドレスもそういった一着よ。 マダムが私に似合うからって用意したんだけど……貴方、半年くらい前にこの生地のドレスが流行したの覚えてない?」
それはアリバイでもなんでもなく、オーレリアが事実を語っているという決定的な証明だった。