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「何のつもりだ、ロスタン嬢」
「黙れ! 虫けら! お父様から手を離せ! 私もお父様も罪など犯していないわ……お前の薄汚い出世の道具になどされてやるものか!」
「何を言っている、ロスタン伯爵の横領もお前の王女暗殺未遂も既に証拠はあるんだぞ!」
父を取り押さえている部下を睨みつけ、オーレリアは腕をねじりあげられている痛みなど微塵も感じさせずに胸を張った。
「だからなんなの! 証拠などいくらでも捏造できるものよ、私もお父様も罪なんて犯すものですか!」
「貴様!」
「よせ」
オーレリアのあまりにも居丈高な態度を腹に据えかねたのか部下の一人がオーレリアの胸倉を掴もうとするのをヴィクトルが制した。
ヴィクトルは極めて真剣な表情をし、敵意すら宿していたが冷静な口調でオーレリアに尋ねた。
「暗殺未遂の首謀者は自分ではない、と。 そう言うのだな」
「そうよ……お前のような底辺出身者がこの私を手にかけるなんて天が許そうとも私が認めないわ」
なんという態度だと白い眼を向ける部下たちを黙らせながら、ヴィクトル自らの手でオーレリアを護送の馬車へと乗せながら、ヴィクトルは静かに頷いた。
「承知した。 ロスタン嬢。 貴君が己に罪がないと主張するのであれば、俺はその証明に手を貸そう」
「え?」
扉が閉まる直前に告げられた言葉にオーレリアは思わず息を飲んだ。 この事件で一番利益を得るのは首謀者を逮捕したヴィクトルのはずだ。 なのに何故、自分が逮捕した相手の無罪の証明を手伝うなどと口にするのか。
だが、オーレリアは馬車の狭い座席に座ったままグレーのドレスを握って考え込んでいた。
奴の提案そのものが嘘かもしれない。 誠実そうな顔をして王族暗殺未遂などという大それた事件を捏造する男のいうことなど信じられるはずがない。
そして、オーレリアは今となっては自宅以上に見慣れた地下房へと入れられた。
湿って不潔な石畳の上に水桶と藁を詰めただけの粗末な木製ベッド。 申し訳のように置かれた古ぼけた衝立の向こうにはおまる代わりに置かれた陶器の壺がある。 すべて一年間の幽閉生活で知っている。 最初の内こそ屈辱のあまり憤死しそうではあったけれど、あの時はそれ以上に怒りと恨みとで命を長らえていた。
思い返してみれば今まで蝶よ花よと愛でられ、慈しまれ育ってきた自分がこのように粗末な地下房で屋根があるだけ路上生活者よりまし、という程度の待遇を一年も耐え忍べたこと自体が驚愕だ。
「今度もまた一年、ここにいるのかしらね」