49
「それは本当ですか! すごいんですね!」
未来が見えるという自分の言葉を純粋に信じて、きらきらとした黒い瞳を向けてくる少女がいた。 年齢は十七歳。 自分よりずっと年上の少女だった。
けれど、彼女はいままでの誰とも違って、ただ純粋にジョージの言葉を聞いてくれていた。
その少女の名前はソフィア。 伯爵家の次女だが凡庸な顔立ちに少し頭が悪くて周囲からは愚鈍だと言われている。 結婚相手が見つからないことを危惧した両親から行儀見習いとして王宮におくられたことがジョージには分かった。
けれど、彼女は微塵も自分の境遇を悲観していなかった。
ぼんやりしていてドジで、よく注意されているけれど、彼女は自分が駄目なのだとは一度も言わず、にこにことした笑顔でジョージの前にやってきた。
だから、ジョージも彼女と話すうちに、見える悲観すべき遠い未来よりもソフィアだけを見ていたくなった。
けれど、同時に見てしまったから知っている。
ソフィアはアウローラ王国へ平和の婚礼のために向かうのだ。 そして子供を産んですぐに死ぬ。 その娘も十八歳で王女暗殺未遂の首謀者として殺される。
なんて救いがないんだろう。
どうしてこんな未来が見えるのかとジョージは嘆きながら、ソフィアがいなくなればダイアナは夫に殺されると訴えた。 もしかしたら、ソフィアが姉のために国に残ってくれるかもしれないと思ったのだ。
けれど、結果は駄目だった。
ジョージ王子がソフィアのためにならないと思った彼女の両親はソフィアの婚約を繰り上げ、アウローラ王国の習慣を学ばせるためという名目でアウローラ王国へと向かわせた。
そこで、ジョージ王子は諦めた。
自分が何をしても運命は変わらない。 変えられる存在ではなく、ただの傍観者に過ぎないのだ。
運命が見えると口にしなくなったジョージは非常に優秀だった。 何しろ未来はいまだに見えているのだから、どんな問題にも対処できる。
精神異常者のレッテルはすぐさに消え去り、ジョージ王子は王位継承者として押しも押されぬ地位についていた。
そして、このままソフィアの娘が死ぬ年が来たら自分も死のう。 そう信じていた。
けれど、運命は変わった。
何が起きたかは分からないが、ある日、目が覚めたら見えていた未来が書き換わっていたのだ。
こんなことは過去にはなかった。 いいや、もしかしたら起きていたのかもしれないが、それはジョージにとってどうでもいいことだったはずだ。
だからジョージ王子は今回の和平条約の延長に王太子の身でありながら参加することを訴えた。 危険だという声もあったが、王太子が参加することでアルビオンが平和を望んでいることを示す必要があると訴え、議会に要求を通した。
運命を変えられる女性――オーレリア。
ソフィアの娘の彼女こそが自分の運命の女性だと信じた。
けれど、書き換わった未来は言っている。
「彼女は別の男と結婚する」
だから、これはジョージ王子にとって最後の賭けだった。
そして、結局運命はジョージ王子に変えられるものではなかった。