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そして、オーレリアが拿捕されてから丁度一年、オーレリアの十八歳の誕生日の朝、ついに彼女の処刑が執行されることになった。
彼女への助命嘆願も少なからずありはしたが、容疑が王女暗殺未遂ともなれば誰も決定を覆せるだけの力を持ち得なかったのだ。
ヴィクトルに付き添われる形で処刑場へと入る彼女を見て、誰が一年前まで輝石姫とあだ名された美女だったと想像できただろうか。
濃い黒髪は首を斬り落とすために無造作に短くされ、灰色がかった部屋着のような白い木綿のワンピースだけをまとった彼女はやせ衰えた貧しい娘よりもなお惨めに見えた。 けれどオーレリアは決して背中を丸めることはなかった聴衆人たちの蔑みの声や投げつけられる石くれなど一切ないかのようにまっすぐに足を進め、さながら舞台に上がる女優であるかのように強い意志をもって処刑台へと近づいていった。
処刑台の階段までついたとき、オーレリアはそこまで随伴していたヴィクトルに顔を向けると笑みを浮かべた。 死人の色をした顔で渇いてひび割れた唇を吊り上げながら、爛々と輝く目を真っ直ぐにヴィクトルへと向けて笑っていた。
「満足でしょうね、底辺出身者。 お前を世界で一番憎んでいるわ」
ただそれだけを告げると、再びオーレリアは正面へと向き直った。 聴衆人の中には王と暗殺未遂の被害者であるマルゴー王女本人もいたが、その二人にすら視線を向けることはなく、オーレリアは処刑人の前へ進み出て、言われるままに膝をつき、首を差し出した。
革袋を被った処刑人は斧を手にしていた。 分厚い斧だ。 これならばやせ細ったオーレリアの首など一撃のもとに跳ね飛ばせる。
処刑人が斧を振り上げると聴衆たちは一斉に歓声を上げた。 王族を害そうとした極悪人が正義の元に処刑されるという娯楽を誰もが心から歓迎し、歓喜の声を上げていたのだ。
そしてオーレリアももはや自分の首が落ちることを覚悟し、一切の苦痛も涙も見せるものかとその時を受け入れていた。
しかし、処刑人の斧はオーレリアの首をわずかにそれた。 斧は彼女の首よりも下、肩にぶつかったのだ。 いくらやせ細っていようとも人間の骨は固く、そして首のような細い部位でなければ斧で叩き斬ることはできない。
「ああああああ――!」
斧が抜かれ真っ赤な血が噴き出すとその激痛にオーレリアはとうとう声を我慢できなかった。 信じられない痛みだった。 目の前が真っ白に歪んで、上下が分からなくなる。 体が内側にむかって引きずられるような急激な痛みにオーレリアは上体を跳ね起こした。
「何やってんだー! 早く殺せー!」
「罪人の首を落とせー!」
壇上でもがくオーレリアの体を処刑人の助手が馬乗りになって強引に押さえ込み、処刑人が再び斧を振りかざすと、今度はオーレリアの頭の左側へと斧が落ちた。