おねぇ伝説~勇者行きつけの喫茶店のおねぇは、返り討ちにされたカワイイ勇者の仇討ちに、バス停担いで大魔王の城に殴り込みに行くようです~
短編書くのが楽しいです。
他にも色々書いているので、良かったら読んでみて下さい。
その日、大魔王は生まれて初めて『恐怖』と言う感情を知った。
彼は悪魔の変異種として誕生し、その瞬間から最強だった。利用しようとする者も赤子の内に殺そうとする者も、尽くを返り討ちにしてきた。
そして、世界を救う為に仲間達と共に聖剣を引っ提げて現れた『勇者』すら、返り討ちにした。『勇者』自体には何らかのアイテムの効果で逃げられてしまったが、その仲間達は全員を始末した。仲間を全て失い『勇者』の心も折れたハズだ。
しかしその結果として、とんでもない『バケモノ』が攻めて来た。
ヒラヒラでピンク色の服を着た、ムキムキで厚化粧のおっさんが、凶悪な鈍器を振り回しながらやって来たのだ。
その恐怖の象徴は、『おねぇ喫茶ラブリーフドウ前』と書かれた『バス停』で、配下の四天王を文字通り叩き潰し、魔王城の強固な扉を蹴破って、のっしのっしと歩いて来た。
「オラァ!魔王!出て来んかい!」
「げべしっ!」
「あばぁ!」
野太い声で叫びながら『バス停』を振り回す『バケモノ』。
魔王親衛隊も全く相手にならない。なぜあんな『バケモノ』がいるのに『勇者』は仲間にしなかったのか不思議でならない。
「おおぅ!てめぇが魔王かぁ!?よくもカワイイ勇者ちゃんを泣かせてくれたなぁ!往生せぇやぁ!!」
「フン!よくぞこのワシの元まで…………いや、ちょっ!?まだ、まだ台詞とかあるから!様式美とかあるから!!」
「やかましゃぁーー!!」
「ひいぃぃーーーー!!??」
ゴスン!ドゴスン!と振り下ろされる『バス停』。魔法やら属性攻撃やらに高い耐性を持つ魔王も、鈍器を使った物理攻撃で滅多打ちにされるなど想定していない。
おねぇ喫茶『ラブリーフドウ』のママ、フドウちゃんは『バス停』で何度も叩き潰された魔王が、ピクリとも動かなくなったのを見て、フン!と言って『バス停』を投げ捨てた。
「…………あらやだ!アタシったら血だらけじゃない!もう!これじゃあこの服、もう着られないわぁ!」
ぷりぷりと怒りながら、しなをつくって歩いていくフドウちゃんを、生き残った魔王軍の幹部達は、ガタガタと震え小さくなって見送った。
こうして世界は平和となったのだが、魔王が倒された顛末は何故か秘匿され、後世では時折、どこから出たのか『おねぇが魔王をボコボコにした』という荒唐無稽な笑い話が語られるようになった。