冷たい春
冬が終わって、だんだんと暖かくなってきました。
春です。春は千代ちゃんが大好きな季節です。
けれど、千代ちゃんは困った顔をしていました。
千代ちゃんは、冬の間に新しい友達ができました。
雪が降った日におかあさんと作ったゆきだるまさんです。
千代ちゃんはゆきだるまさんに大好きな春を見てもらいたいと思いました。
けれど、ゆきだるまさんは暖かいのが苦手だからと、今は冷凍庫の中にいます。
千代ちゃんはおかあさんに、ゆきだるまさんを冷凍庫から出しちゃだめだよと言われていました。
どうしよう、どうしよう。千代ちゃんは考えました。
千代ちゃんが外を見ると、桜の花びらがひらひらと落ちていました。
それを見て千代ちゃんは思いつきました。
千代ちゃんはお気に入りのカバンを持って、お外に出かけました。
まず、お外に落ちていた桜の花をたくさん集めました。
次に、公園に咲いていたタンポポをたくさん集めました。
それから、河原に生えていたつくしもたくさん集めました。
カバンいっぱいの春を集めた千代ちゃんは、お家に帰っておかあさんに言いました。
「おかあさん、おてがみをいれるふくろちょうだい」
おかあさんは聞きました。
「袋だけでいいの? お手紙を書く紙はいらないの?」
千代ちゃんは首を横に振りました。
「ゆきだるまさんに、はるをおとどけするの!」
そう言って自慢気にカバンの中身を見せました。カバンの中は春の草花でいっぱいです。
「ゆきだるまさんは、あたたかいのがにがてだから、おてがみのふくろにいれて、ひやしておとどけするの! つめたいはるをおとどけするの!」
それを聞いておかあさんは少し驚いて、そして笑って言いました。
「それならかわいいピンクのお花のふくろがいいかしら」
そう言っておかあさんはピンク色の花柄の封筒を千代ちゃんにあげました。
千代ちゃんは喜んで、鉛筆で封筒に「ゆきだるまさんへ つめたいはるのおとどけです ちよより」と覚えたてのひらがなで書きました。
そうして拾ってきたたくさんの春を封筒の中に入れてあげて、セロハンテープで閉じました。
「おかあさん! ひやして!」
千代ちゃんは封筒をおかあさんに渡して、冷蔵庫の中に入れてもらいました。
千代ちゃんは冷たい春をゆきだるまさんに見せたくてたまりません。
何度も何度も「もうひえた?」とお母さんに尋ねました。
そうして一時間が経って、
「そろそろ冷えたんじゃないかな?」
おかあさんがそう言って、冷蔵庫から封筒を取り出しました。
「うん、冷えてる。ほら、千代。ゆきだるまさんに届けてきてあげて」
そう言っておかあさんは冷凍庫を開けてくれました。
千代ちゃんは冷凍庫を覗き込みます。
そしてそこには、小さなゆきだるまさんがいました。
「ゆきだるまさん、ゆきだるまさん、つめたいはるのおとどけです!」