78.照準スキルと飛斬
今年もお世話になりました。誤字報告有り難うございます。
付与魔術の練習のせいで大幅にお小遣いが減ってしまいました。なので今はネイちゃんと狩猟がてら新たなスキルのお試しに来ています。
「お小遣い大分減っちゃったね。なんでだろう? 最初は凄く上手く出来たよね?」
「……うん」
「最後の方はほとんど失敗だったね」
「……うん」
そうなんだよ。最初は上手く出来てたんだ。でもどんどん失敗するようになって、最後の方は成功するのか? って言う感じにまで落ち込んじゃった。
結局その後からポーションですら上手く出来なくなっちゃったの。師匠はその様子をニヤニヤ見てたよ。きっと何かあると思うんだよね。分からないんだけど。
「ま、気にしてもしょうがないよ。今日はお小遣いを増やそうね」
獲物の減った西の森手前の草原で小遣稼ぎです。飴玉くらいにはなるだろうと言う感じで狩猟と採取に来てます。
早速ですが一角ウサギを発見です。1匹だけですけど。本当に獲物が減りました。おっと、気を取り直して、まずは私が狙います。そうそう、弓ですが早々に緩めて貰っています。ちゃんと引けないので。
弓を引き絞るとなんと! 照準マークが見えます。弓を上下左右に振ると照準も動きます。ゲームのようです。これで狙い易くなりました。
照準マークに一角ウサギを捉えて弓を放ちます。放った矢はヒュッと飛び一角ウサギの手前の地面に突き立ちました。もちろん驚いた一角ウサギは逃げてしまいました。
「……」
ネイちゃんの視線が私に突き刺さっています。じーっと見詰められています。私は弓を放った体勢のまま固まっていますよ。
「あれ? おかしいな? 照準通りなのに……」
一応言い訳をしてみますが、ネイちゃんの視線は変わりませんでした。
「じゃ、じゃあさ。次ネイちゃんやって良いよ。なんか調子よくないしさ私」
コクリと頷くネイちゃん。くっ。せめて何か言って! ネイちゃん。
獲物を探しながら、結局泉までやって来てしまいました。ようやくマガーモを1羽発見です。腰を低くしてこっそり泉に近づいていきます。
あともう少しと言うところまで近づいてから匍匐前進で漸く射程に捉えました。おもむろにネイちゃんが弓を構えます。
ん? ネイチャンが妙な動きをしだして何か納得した様子。きっと照準が見えたのでしょう。先ほどの私と同じ動きです。
ポチャン。マガーモの手前の泉に矢が吸い込まれて行きました。バサバサバサ。マガーモが遠くに行ってしまった音ですよ。もちろん私はそんな事気にしません。
じーっとネイちゃんを見詰めるだけです。オロオロ、ワタワタするネイちゃんもかわいいです。でもじーっと見詰めるのは止めません。
「だよね。この照準おかしいよね?」
コクコク。ネイちゃんの同意が得られてよかったです。さあ、ここからは相談タイムです。
「ちょっとあっちで練習しようか? こんなの外す訳ないもんね」
コクコク。やっぱりネイちゃんも思っていたようです。いままで100発100中――射程内なら――を誇っていた私達ですもの。不思議に思うのは当然です。
木の幹を相手に練習したところ左右のブレは余りありません。少し風が吹くとズレがある程度です。この事から今、見えている照準は補正が全然ないと言う事が分かりました。
「なーんだ。分かってみれば簡単だったね」
でもここからが結構な問題でした。だって見えている照準なんだよ? つい狙うじゃない。何時もはこんな感じでと言うくらいで弓なんて射てるのに目安が有るもんだからそっちに気がいっちゃうんだよ。
「……これ。照準無い方がやり易かったかも。どうもこれ狙っちゃうよね?」
コクコク。どうやらネイちゃんも同じ苦しみを共有してくれているようです。自分の中の感覚と照準を合わせるのにちょっと手間がかかりましたが、もう大丈夫です。
感覚を優先してこの辺かなと思う所に照準を合わせればいいのです。獲物を照準に合わせたい気持ちをぐっと堪える感じです。
ここを狙ってますと言う所に照準を合わせればいいのです。たとえ獲物から外れていても。
私の場合まだ楽でした。銀の助言ちゃんが『今』と言う声をかけてくれますから。ネイちゃんは大分途惑っていたみたいですけど。
小一時間も練習していれば、感覚も慣れてきます。さて、狩猟に戻りましょう。
「南の丘の方に行く? それとも北の森近くに行く?」
私達が今、居るのはやや北寄りの西の平原です。もう少し北に行くと泉が有ってさらに北に行くと森にぶつかります。周辺で獲物が見つからないのでどちらが良いかなと思ってネイちゃんに尋ねました。
「……南、獲物居ない。北」
やっぱりそうなるよね。でも北は近づいちゃいけないよって言われてるんだよ?
「う~ん。危なくないかな~。でも獲物居ないしな~。じゃあ、もう少しだけ北の方に行ってみようか?」
コクコク。泉の辺りを越えてもう少し北に行きます。北の森が間近に迫ってくるのは結構な恐怖を誘います。頼れる師匠もカンナさんもいないのでビビりまくりです。
森の手前、居ます。居ます。結構な量の獲物が北の森から溢れています。一角ウサギなんてかわいい獲物じゃありませんけどね。
「ネイちゃん。あれはヤバいかな? 人型は初めてだよ」
「……ゴブリン弱い。平気」
そうです。ゴブリンです。こんな町の傍で平然と歩いています。その数5。ゴブリンは最弱の魔物に分類されますが、一角ウサギよりは確実に強いです。
大丈夫かな~。