5.薬師
村外れにほど近い所にその家は建っていた。うん。薬師の家は匂うからね。仕方ないよ。病院の匂いは嫌いだよね?
大きな籠を下ろして窓から家の中を覗くといつもの様におばぁが居間に座ってご~りご~りと薬草を磨り潰してる。いつ来てもやってるんだよね。
薬師のおばぁが居ることを確認して、大きな籠を持って玄関に回る。
「おばぁ~、薬草採って来た。また買って」
「ん~~。おお~、ガリペタの小娘か~。器量はええのに勿体ないの~」
うっさいよ。気にしてるんだから。これから育つんだよ。今はちょっと栄養が足りないから脂肪を蓄えてないだけだよ。
「大きなお世話だよ。これからだもん。そうじゃなくて薬草採って来た買ってよ」
「どれ。また傷薬の葉っぱじゃろ? ケロ2リンじゃよ。おお。おお。結構採って来たな。ふーむ。10ケロには若干届かないくらいかの。まあええ。サービスじゃ。20リンやろう。お前さんは質の良いのを集めて来るからの」
「やった! 今日はそれだけじゃないんだよ。これこれ見て見てよ」
「ん~~。おや? 良い物採って来てるじゃないか。こりゃ魂消た」
ふふ~ん♪ どうよ、いいものでしょう。ギフトを使って選別したんだから当り前と言えば当たり前なんだけど。
なにやらおばぁがひいふうみいとか数えだしたよ。おばぁが数えてる間なんの気なしにおばぁがいつもやってるご~りご~りを見る。
「ねぇ、おばぁ。いつもごりゅごりゅやってるのはなんで?」
「ん? ああ、お前さんらが採って来た薬草を薬にするための下準備じゃよ」
「ふ~ん。おばぁみたいにごりゅごりゅしたら高く買ってくれる?」
「そうさな。ほれこの瓶一杯にしたら角銅貨をくれてやるぞ。ただしちゃんと細かく磨り潰したらじゃ」
「え? いつも小銅貨2枚とかなのに?」
「お前さんが採って来る量の3回分くらい必要な筈じゃよ。綺麗に洗って乾燥させてから磨り潰すんじゃから5、6日くらいかかるじゃろうからの」
なるほど。5日間採り続ければそのくらいになるか。……でも夜にごりゅごりゅすれば、3日分で良いんだよね。およそ倍の儲けになるんだ。試しにやってみるのも良いかも。
「ねぇ、おばぁ。そのごりゅごりゅするのは貸してくれるの? 儲かるならやってみたいんだけど」
「そうさな。昔使ってたこれなら貸してやるぞ。やってみるかい?」
元気良く返事を返して道具を借り受ける。薬研と言う道具らしい。使い方を習うとこの薬研に乾燥した薬草を入れて薬研車と言うローラー(?)を前後に動かすことで細かく磨り潰すらしい。
へぇ~。これは前世の記憶でも無い道具だよ。地球にもあったのかしら? てっきり乳鉢(理科の実験で使ったので知っている)なのかと思ったよ。
おばぁからどのくらい細かくするのかとか葉脈とかも残らずちゃんと細かくするとか注意点を聞いた。
「さて、こっちの薬草は240リンでどうじゃ? もうちっと高く買ってやりたいが村の衆の薬を高くする訳にもいかんでの。合わせて260リンじゃよ」
「ううん。いいよ、いいよ。十分だよ。やった! 小銀貨だよね。うふふふふ~」
よし、よし。一日の儲けとしては上々だよね。これに一角ウサギの毛皮と角に魔石の値段を加えれば4、500リンだもんね。
その内森に入れれば、もっと貴重な薬草も見つけられるだろうし将来の展望も開けてきたかな~。
おばぁから受け取った小銀貨2枚と銅貨6枚をポケットに入れておばぁの家を後にする。走って家路を急ぐ私、思わずスキップランランランって感じだよ。
ふひ♪ お肉~お肉~おにっくがうれしいな~と。もう焼いてるかな~。汁にも入れてるかもしれないねっと。
「ただいま~。もう焼いてる? これハーブも採って来たんだけど使える? お母さん!」
昼に採ってきておいたハーブを母親に渡して居間に上がり込む。
「ねぇねぇ、お父さん。あたし弓のコツ掴んだかもしれない。最初の1回はまぐれっぽかったけど、もう1回やったらビュって狙い通りに行ったもの」
「ああ、そうか。そいつは凄いな~。父さんでも出来ないからな~」
身振り手振りで今日の偉業を父親に話して聞かせる。
「ほらほら。お夕飯出来たよ。今日はタエが一角ウサギを2羽も獲ってきてくれたからご馳走よ」
おお、ハーブを効かせた焙り肉、凄いよ。こんなの見たこと無いよ。みんなに1本、骨付きのもも肉がある! 大ぶりのお肉だから後ろ脚だ。
妹もおおはしゃぎだよ。そりゃそうだよ、私だってこんな夕飯見た事無いもの。良くお母さん調理方法知ってたな~。
「残りは干し肉にしとこうね。そうすれば冬でも食べられるから」
「うん。明日も獲ってくるよ。なんせコツ掴んだんだから。お父さん! 明日も行って来ていいよね?」
「う~ん。そうだな~」
「お父さん、お姉ちゃんに行かせてあげて! あたしが畑頑張る。お姉ちゃん、明日もお肉獲ってきてね!」
「まかせなさ~い。コツ掴んだんだから絶対獲って来てあげるよ」
妹の説得も加わったので苦笑しながらもお父さんの了解も得られた。
「あ、そうだ。お母さんこれ、薬草の売り上げ」
そう言ってポケットから260リンを渡す。
「あんた! これどうしたの?」
「今日は良い薬草が結構採れたんだよ。おばぁもビックラこいてたよ。薬草採りもコツ掴んだかも?」
小首をかしげながらそんな事を言ってみた。
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