44.お師匠様1
そこそこの量のズキ草を取ってきました。もちろん運んだのは私とネイちゃんです。お姉さん師匠は先頭を歩いています。
どこに連れて行かれるのかと思っていましたが、錬金術師の工房兼家でしょうか? こぢんまりとしていますが瀟洒なお宅です。庭も裏庭も有ります。井戸まであります。
裏庭には小さな薬草畑、家の前の庭には……花? 一応は花が咲いていますが観賞用としては微妙な花です。黒の助言ちゃんこれ何? と鑑定したいところですがお姉さん師匠が振り返ったので直立不動で待機します。
「ここが今日からお前達の家だ。……と、名前もまだ聞いて無かったな」
「タエです。こっちは一応私の奴隷のネイちゃんです。その内解放する予定です」
「……エルフか。奴隷狩りにでも有ったのを手に入れたのか。まあ、無難な選択だ。当分そのまま奴隷にしておきなさい。私とていつもお前達を見ていられるわけではないからな」
おお、速攻で理由まで看破されました。人間よりエルフの方が圧倒的に狙われ易いので心配です。どうも妹と重ねてる? 1人になるのが怖い? 理由は何にせよ、私はネイちゃんに依存しているようです。
「え~と。私達前金で宿屋をキープしておりまして……」
「解約してきなさい。弟子にしたからには衣食住の面倒は私が見る。当然住み込みだ」
「え~と。私達今冒険者ギルドの初心者講習を受けていまして……」
「今まで通りの生活に、錬金術師見習いとしての仕事が追加されると思いなさい。見習いとしてちゃんとしていれば、とやかく言う事はない」
「え~と。まだ錬金術師としての素質が……」
「うだうだと、何を言っている! サレナ導師が弟子にしているなら素質も見極めている。サッサと入りなさい」
ああ、余計な事を言わなければよかった。ギリギリと締めつけられる頭を抱えじたばたと暴れる私。ぎゃ~。
頭を締めつけられじたばたしている私の周りでオロオロとしているネイちゃん。助けようとしてくれているようだけど自分も巻き込まれる恐怖からか、ただウロウロしているだけに終わっています。
ドサッと居間のソファーに放り出されようやく解放された。くっ、私は学習する生き物だったはずがこの短時間で3回も食らうとは……。
痛みが引いてようやく辺りを見回す余裕が出てきました。
「……お姉さん師匠? ご結婚は?」
「うん? まだだ。なかなか私に見合ういい男がいなくてな。はっはっは」
そうだろう。そうだろう。前世も含めて特に綺麗好きと言う訳ではないけど、これは……片づけられない女? ここで生活しろと? マジで?
何やらゴミの中を漁っているのはお姉さん師匠。何をしているかとんと見当もつかないよ。なぜいきなりゴミ漁り?
「あ~、有った。有った。ほれ。私のお古だが見習いの時に身に着けていたローブだ。うん。ちょうど2着有ってよかった」
放り投げられたローブ? 何十年そこに有ったのって言う感じのボロ布にしか見えないが一応ローブの形はしているようだ。
《汚れを落とせ! 洗浄!》
速攻で生活魔法を使ってみました。まあ、うん。綺麗になってみれば、えへへ。良いよ良いよローブだよ。おばぁもくれなかったから初ローブだ。
ちょっと嬉しいかも。ネイちゃんのローブも洗浄してあげたよ。いそいそと2人でローブを被ってみます。うふふ。いっちょ前に見えるから不思議だ。
白色の何の飾りも無いローブだけど、なんか錬金術師っぽい。これで杖とかあれば完璧です。一応錬金術師のローブは黒なんだけど見習いはまだ黒を着ちゃいけないので白なのです。白は染色する必要がないから安いんだよ。
「杖もどこかに有ったはずなんだがまあ良い。その内見つかるだろう。そんな事より始めるぞ」
ああ、やっぱり忘れて無かったか。仕方ない。ズキ草を取り出して洗浄の魔法を掛ける事にしました。
《汚れを落とせ! 洗浄!》
続けて乾燥までしちゃいましょう。どうせこの後ごりゅごりゅが待っているんだからと思ったらネイちゃんが乾燥はしてくれるようで汚れの落ちたズキ草を次々に乾燥してくれました。
《水を飛ばせ! 乾燥!》
2人で手分けして魔法を掛けているので早いです。もちろんお姉さん師匠は胸の前で腕を組んで見ています。その胸部装甲がむにっと持ち上げられていてうらやましいです。
ローブなので分からなかったのですが、なかなか良いプロポーションをしているじゃありませんか。少し分けて欲しいです。
おっと余計な事を考えているとまたアイアンクローが来そうなので集中します。葉の部分と根っこの部分を切り分けて別々にします。
「え~と。薬研ありますか?」
「うん? いや、あれを使いなさい」
おお~。あれは魔道具! まさか、まさか! ごりゅごりゅしなくてもいい? 早速使ってみたいかも。
「ネイちゃん。これやってみたいよね?」
コクコクと頷くネイちゃん。ネイちゃんの目も輝いています。魔道具を使うのも初めてだけど、これは粉砕機でしょうか? 石臼みたいな構造でしょうか。上から刻んだ薬草を入れると下から出てくるのかな?
上の穴に硬い根っこの方を押し込んでみました。ネイちゃんも興味津々です。……うんともすんとも言いません。思わず振り返ってお姉さん師匠を見てしまいました。
ニヤ~と嫌な笑い方です。ああ、これは何かあるんだと誰でも気付きますとも。イヤな予感しかしません。
「そんなに怯える事はないさ。ただ魔力を込めないと動かないだけさ。そこに魔石が有るだろう? そこに魔力を込めるんだ」
なるほど。そう言う事ですか。なぜ、ニヤ~としたんだろう? 私は手をかざして魔力を込めてみました。