20.冒険者ギルド
ブクマ、評価して頂ければ嬉しいです。
ヤバいヤバい。こんなおっさんおばさんの中に突っ込むしかないなんて、想像だにしてなかったよ。しかしこの関門を越えなければ冒険者資格が……。
私は意を決して冒険者ギルドの正面からコソッと侵入しました。うん、目立つのはよくないよ。何事も中庸が一番だよ。
ネイちゃんもわたしの後からコソコソと侵入してきたよ。もちろん手を繋いでいるから一緒なんだけどね。
隅から隅、陰から陰を渡って比較的優しそうな受付のお姉さんを目指します。眼鏡をかけた怜悧なおじさんとか恰幅のいいおばさんとかおっかないかもしれないので避けました。
漸くの思いでカウンターの前に辿り着いて声を掛けました。
「すいません」
受付のお姉さんが私の声に反応してキョロキョロと辺りを見回しますが、また事務仕事に戻ってしまいました。仕方ないのでもう一度声を掛けます。
「あ、あの、すいません」
今度は明らかに眉間にシワが寄ってます。またしても辺りを窺っているのでもう一度声を掛けておきましょう。
「あ、あの、こっちです」
受付のお姉さんが、カウンターから身を乗り出してやっと私達に気付いてくれました。確かに同年代の中でも小柄な方ですけど気付かないって……カウンターが高過ぎなんですよ!
「あら、ごめんなさい。カウンターが邪魔で見えなかったの。どうかしたのお嬢ちゃん達?」
「冒険者登録に来ました」
「え? あなた達? ここ冒険者ギルドよ?」
「はい。知っています。だから冒険者登録に来ました」
「……」
沈黙の後、ヒラリとカウンターを飛び越えてあたし達の前にやって来た受付のお姉さん。しゃがんで私達と目線を合わせて小首をかしげます。
「冒険者って危ないのよ? 死んじゃうかもしれないんだけど、凄く痛いかもしれないのよ?」
「え、え~と。採取主体で一角ウサギとか狩る予定です。それなら村でもやっていたので大丈夫です」
「本当? 武器はなに使ってたの?」
「弓です。ここに来るまでに壊れちゃいましたけど。でも四つ手熊だったから仕方ないかなって」
「四つ手熊?」
「あ、報告しておかなきゃいけないんでした。村からここまで来る間に四つ手熊が出ました。既に商人さんがおひとり犠牲になっています。途中で護衛任務中のカイゲルさんと会ったので情報売ってしまいました」
「!!! その話本当なの!?」
「本当です。なんかやる気満々で向かって行きましたからカイゲルさん達が斃しているかもです。あ、でも特殊個体っぽかったです。黒毛でしたから」
「……うーん。カイゲル達でダメならどうにもならないか、大規模パーティー組むしかないか……。情報ありがとうね。確かめておくわね」
そう言って踵を返してしまったので慌てて声を掛けました。
「あ、あの登録したいんです」
「あ、いけない。そうだったわね。うーん。ちょっとここじゃ見えないからこっち来てくれる?」
そう言ってカウンターの向こう側に連れて行かれました。
「あら? かわいい。どうしたのよ。あんたの隠し子?」
「うるさいわよ。そんな訳ないでしょう。新規登録希望者よ。カウンターの向こうじゃ見えないのよ」
何やら同僚の方と喧々囂々? 丁々発止? やり取りしてから私達を木の椅子に座らせて事務処理をするようです。
「はい、これに名前とか書いてくれる? 字書ける?」
「一応書けます。ネイちゃんの名前はネイだけでも大丈夫ですか?」
「どういうこと? ちゃんと名前書いてほしいんだけど?」
「なんか長い名前で言葉が違うようなんです。多分エルフ語? 聞き取れるのが最初のネイだけなんですよ」
「そうなんだ。うん。まあ、良いでしょ」
名前とか出身地とか、主要武器とか書いて渡しました。書類の中央に金属プレートを1枚置いてその上に手をかざします。
「じゃあ、ちょっとそのままでいてね。今、詠唱するから」
おお。受付のお姉さんが呪文ポイのを唱え出しました。書類に魔法陣が浮き上がって私から魔力を吸い取って行きます。ネイちゃんにも同じ事をして登録完了の様です。
「はい。これが登録証よ。うーん。ちょっと待っててね」
金属プレートを渡そうとして引っ込めました。カウンターの引き出しから紐を取り出してプレートに着けてくれました。
「はい。首から下げておけば無くさないでしょ? 冒険者証には魔力で文字が書かれているのよ」
凄いです。擦っても消えないしデコボコもありません。削っても消えないそうです。さすが魔法の刻印です。
お礼を言ってからコソコソと冒険者ギルドをあとにしようと思ったのですが、見つかってしまいました。
強面のおっさんです。その声に気付いた他の強面のおっさんたちも寄ってきて2人とも囲まれてしまいました。絶体絶命です。流石のネイちゃんも怖がって私にしがみ付いていますよ。
「何だ何だこんな所にお嬢ちゃんみたいなかわいい娘がいたら連れて行かれちまうぞ」
ひぃ~。なんかどこかに連れて行かれちゃうんでしょうか? 売り飛ばされちゃうのは嫌です。先ほどのお姉さんがまたヒラリとカウンターを飛び越えて私達の方にやってきます。
「ギルマス。怖がらせないでください。今、登録したばかりの新人ちゃんなんですから」
「なんだよ。別に何もしてねぇだろが。ちょっと心配してやっただけじゃねぇかよ」
「顔が怖いんですよ。いいからそっとしておいてあげなさいって。抱っこしようとかするんじゃありません!」
以下の様な物も書いてます。
異世界農業物語~異世界で農業始めましたーhttps://ncode.syosetu.com/n0558dz/
異世界転生苦労譚~異世界だって甘くない~https://ncode.syosetu.com/n3637fl/
エルフ賢者の子育て日記―https://ncode.syosetu.com/n5068fk/