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15.旅立ち3

 夜が明ける前に見張りを交代した。朝から狩りに行く時と同じくらいだろうと思う。静けさが耳に痛いほどに感じられる中、焚火が時折パチッと鳴る。


 暗闇の中で一人、去年の事を考える。妹に行かせず私がおばぁの所に行っていれば、随分と結果が変わったのではないか。つまり家族を殺したのは自分ではないかとふと考えてしまう。


 自分なら銀の助言ちゃんが頑張ってくれるので病に斃れる事はなかったと思う。仮定にしか過ぎない事は十分に分かっているのだが、自分を責めずにはいられない。


 一生この思いを抱えて生きて行く事になるんだろうと……。徐々に夜明けが近づいてきた。どんな闇もいつかは開ける。そう思い強く生きて行こうと思った。


「さて、暗くなっていてもしょうがないし、人は簡単に死ぬもんだと割り切っていかなきゃ。朝食の獲物は何にしようかな~」


 小鳥を数羽狩れたので朝食は軽めにしよう。羽を毟って壺抜きを済ませた小鳥を姿焼きにして、骨ごとバリバリいっちゃおう。


 朝食を済ませて野営地を出発した。昨日と同じく道すがら採取をして進んで行く。お昼を過ぎた頃私の手には小銀貨がじゃらじゃらしていた。


「タエちゃん稼ぐね~。お兄さんの財布の中身が無くなりそうだよ」


「うそおっしゃい。街に着いたら銀貨がじゃらじゃらいうんでしょ?」


「ははは。違いない。今回の道程は食事は美味しいし、お喋りしながらに貴重な素材も仕入れられるとか夢の様だよ。この後もお金を貰ったお客さんじゃなくてお金を払って一緒に行きたいくらいだよ」


「おさんどんで一生を終るつもりはありませんよ。ん? ちょっと止まって下さい」


「どうしたんだい? また採取?」


「……違います。どうしましょう。この先馬車が横倒しになって荷物が少し散乱しているようです。盗賊の仕業じゃないと思います。となると魔獣ですよね?」


「えっ? 本当かい? ぼくには見えないけど……盗賊なら馬車は残ってないよ。横倒しになってるなら事故とか休憩もありえないね……」


「付近に魔獣の気配はないようです。一気に横を素通りするのが一番安全ですが……街以外での拾得物は拾った方の物ですよね?」


「……」


「マークお兄さんのチャンスです。私はどちらでもいいですよ?」


「……悪いが寄らせてもらう」


「はい。でも時間は100数えるまでです。目利きの出来るマークお兄さんが荷台を、周辺を私が探しましょう。で、山分けにしますか? 自分の拾ったものは自分の物にしますか?」


「時間は了解した。山分けにしよう」


「いいんですか? マークお兄さんが不利ですよ?」


「一緒に危険を冒すんだ。一蓮托生だよ」


「では横付けしたところから100数えます。行きましょう」


 ゆっくりと静かに前進して行く。横倒しになった荷車がはっきりと見えて来た。だんだんとその姿が大きくなり横付けされてからの行動は早かった。


 マークお兄さんが馭者席から飛び降りるのに続いて私も飛び降りた。マークお兄さんはそのまま荷車を目指して一直線に私は前に回って馭者席の方へ。


 馭者席から投げ出されてこと切れている被害者さんのもとへ駆け寄って胸元腰回り手足首と順に探っていく。胸元の隠しから財布代わりの小袋、腰の隠しからは懐中時計、腰回りから短剣と鍵束、指に嵌っていた指輪3個を抜き取り、足首にはなにもなかった。


「……たすけて……」


 ギョッとして振り返る。確かに微かな声がした。荷馬車に近づいて行くとまたかすかな声が聞こえる。慌てて荷台を探ると小さな檻に閉じ込められている子供がいた。


「なんでこんな所に居るの!」


 思わず叫んで檻を掴むとカギが掛っており開けられない。先ほど見つけた鍵束を取り出して直ぐに開ける。


「早く! 出て。そのままあっちの荷台に乗りなさい」


 ヨロヨロとまろび出て私の指示に従い、馬車に乗り込むのを見届けて、あとタグ付けで気になっている馬車の下を見るとカギ付きの隠し場所を見つけた。


 もちろん先ほどの鍵束から合うカギを選んで開けた。ドンピシャですよ。隠し金庫発見です。金庫を引きずりだして馬車に持っていく。


「ちょ、ちょっと手伝って。これ荷台に入れて」


 さっき檻に居た子と協力して荷台に持ち上げたところでぞわわとした。思わず振り返った私は荷物を荷台に投げ込んで馭者席に飛び乗る。


「マークお兄さん! なんか来ます。直ぐに馬車に乗って!」


 荷物を抱えたマークお兄さんが荷馬車から飛び出して来てこちらに向かって走って来る。その後ろの森が爆発した。


 マークお兄さんの荷馬車と同じ位の四つ手熊―バーバリアンベア―が咆哮と同時に飛び出してきた。マークお兄さんが馬車に荷物を投げ込んで馬車に掴まったと同時に私は馬に鞭を入れた。


 四つ手熊の接近に脅えていた馬はいななきをあげて狂ったように駆けだした。


「マークお兄さん! 御者を代わって。私、操車出来ません」


 マークお兄さんが荷馬車によじ登って腰まで荷馬車に入ったところで四つ手熊の腕の一振りがマークお兄さんの右足に炸裂した。


 マークお兄さんの絶叫が響き渡る中、もう一人の同乗者に声をかける。


「ちょっとあんたマークお兄さんを引きずり込みなさい! それから御者を代わって。このままじゃ追いつかれちゃう」

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