105.錬金術師見習い10
熱気が収まったのを見計らって洞窟の出口に向かうとお待ちかねの夕飯タイムだ。
「おお。やっとありつけるよ。唯一の楽しみだよ。これがなければこんな苦労しないもんな」
隠ぺいをフル稼働して近づく。カンナの隠蔽スキルは既にレベル7に達している。真横に立っていてもタエたちでは気づくことさえできないだろう。
それをいいことにカンナはやりたい放題だ。先ずは焼き上がった肉を根こそぎ失敬して、それに気を取られたすきにスープを朝持ってきた鍋に入れ替える。
「うめ~。やっぱあいつらの火加減、下味、味付けともに抜群だな。自分じゃこうはいかないんだよな~」
おうおう、殺気立っちゃってまー。そんなに殺気を振りまいてたら他の気配なんか分かるわけないだろうに。と思いながら見ているとなんと大量の肉を焼き始めた。
ん~? どうしたんだ? 昼と違うな? もぐもぐ。意図は分からんが、こちらとしても好都合だ。たらふく食べさせてもらおう。
肉を食べ終わったので次をと思い焼け頃の肉を掴んだ途端、タエがいきなり、『そこだ~』とか言いながら明後日のところを切りつける。
??? こいつどこを狙っている? まさかと思うが、私以外の何かがいるのか? そう思い、念のため索敵を開始するも何の反応もない。
とまあ余計なことを考えているとネイがタエに聞いていた。
「……タエ! 見つけたの!?」
「ううん。やってみたかっただけ。なんか凄腕の人とかやってそうじゃない?」
「……なる~。ネイちゃんもやる!」
その後はひどかった2人で『そこだ~』、『バレバレなんだよ』とか言いながらそこらじゅうを切りつけ得意そうに『ハン、一昨日来な』とかいいだしていた。
「ふ~。子供はいいな。なんでも楽しめるんだ」
なんか自分が薄汚れた大人になった気分だった。まあ楽に食料を確保できたので良しとしよう。
◇ ◇ ◇
肉が消える現象が起きてからしばらく、ネイちゃんと敵発見遊びをしてしまいました。ついつい夢中になってしまって大半の肉が消えているのに気が付くまで時間がかかっちゃったよ。
まいいや。楽しかったから。改めて肉を焼くともう肉が消えることはなく、遅い夕食となってしまいました。はふ~。肉うま!
「さて、お茶も済んだしそろそろ寝ようか? どっちから見張りする?」
「……タエから」
「オッケー。じゃあネイちゃん、寝ていいよ。一応装備は着けたままでね。おやすみ~」
「……すや~」
こうして初めての見張りを開始しました。……ちょー暇です。その上眠いです。今日は朝も早かったし繭玉で遊んじゃったしで疲れてるからこれは拙いです。
火を絶やさないように薪代わりの小枝を入れたり、炎を見つめたり30分刻ほど頑張ったんだけど、コックリコックリと舟を漕いでは、ハッとするを繰り返していました。
……気づいたら朝でした。焚火も消えていません。ふしぎ~。まあ、そういうこともあるかと思いネイちゃんを見ると大の字になって寝てました。
「イタタタ~。やっぱり地面で寝るのはきついな~。せめて板の間くらいじゃないと。なんかいい道具とかないかな?」
さあ、朝食だーとか思いながら洞窟の入り口から外を眺める。いまだにザーザーと雨は降り続いており、とうとう雨期に入ったかとため息が出る。
帰りはこの雨の中ビシャビシャになりながら帰るのか~とか憂鬱な気分である。気を取り直して朝食の準備だ。相変わらず肉・肉・肉だけどね。
昨夜の経験から最初から大量に焼けばいいんじゃない? ということに気が付いた。早速、焚火を起こして串肉を全周で焼く。焚火の上にもY字の枝で吊るしてマンガ肉風を焼いておく。
なんとなくだがマンガ肉風のが一番最初にやられる気がする。ただの勘だけどね。もう一つ焚火を起こしてそちらには肉スープを作っておく。よく温まってから出発しないと途中で挫けてしまいそうだから。
「よし。戦闘準備完了。昨日の続きだ。うふふ。なんだかんだ言って昨日のも楽しかった。ネイちゃんも調子に乗って『そこ!』とか『まだまだーと』か言ってたしね」
大方の準備が出来た所でネイちゃんを起こすことにします。一応毛布代わりのポンチョは掛かっているけど、どうやって大の字に寝ながら掛けたんだろう?
「ネイちゃん。ネイちゃん。朝だよ。ごはん、ごはん」
「……うみゅ~? 交代?」
「ううん。もう朝だよ。交代しないまま朝になっちゃったと言えば聞こえがいいけど、寝落ちしました。ごめんチャイ」
「……タエ。凄く危ないの。ここは危険地帯なの」
「う、うん。そうだね。今回経験して夜の見張りはまだ無理ということが分かったよ。結構頑張ったんだけどいつの間にか落ちちゃうんだ。多分ネイちゃんも無理だから、野営する時は別の人が必要です。師匠とかカンナさんとか」
「……と言うことは日帰り冒険オンリー?」
「当面はそうなるかな。あ、結界の魔道具とかあれば大丈夫かも見張りの練習もできるかもね。寝落ちしても安心とか」
「……あるの? お姉さん師匠、使ってなかった」
「そういえば使ってなかったね。何か問題があるのかな? まあ、無事帰れたら聞いてみよう」
ネイちゃんを起こして身嗜みを整えさせている内に大半の食事が消えていたけど、一応私たちの分くらいは残っていた。
そうそう、身嗜みだけどネイちゃんも洗浄の魔法を習得しました。よっぽど悔しかったのかこっそり練習しているのを知っています。
さあ、食事も済んだし帰ろう。