103.錬金術師見習い8
「あっはっはっは~。ゴロンゴロン~」
「……きゃはは~」
時ならぬ森の中で楽し気な子供の声が響き渡りました。十分以上の糸の収穫に成功した私たちは雑納袋一杯に糸を収穫して意気揚々とイノシシの元まで戻りました。
「大猟大猟! それにしても面白かったね~」
「……面白かった。またやりたい」
「うん。そだね。今度は草原でカンナさんにボイ~ンって蹴っってもらえばいいよ」
「おぉ~! タエ天才」
さてワイルドファングの処理をして持ち帰る準備をしないとね。糸の採取で結構な時間を使ってしまったので早くしないと今日中に帰れなくなっちゃう。
凍り付いたワイルドファングを半解凍して、内臓を抜く。その後毛皮を剥いで頭を落とす。頭からは牙を抜き頬肉と舌も切り取る。
抜いた内臓のうち心臓の近くから魔石を採取。ウフフ。そこそこの大きさだ~。あとは枝肉にして雑納袋に入れて持ち帰るだけだ。
「結構な荷物になっちゃったね。お肉は私のアイテムボックスに入れるから糸はネイちゃんお願いね」
「……了解。タエお肉大丈夫? 60ケルはあるよ?」
「ん~~。多分大丈夫。身体強化するから。さあ、遅くなっちゃった早く帰ろう」
「……うん」
その後直ぐ私たちは立ち往生することになる。ザア~ザア~と突然の雨。それまでもシトシトピッチャンと降ってはいたんだけど何とかなる程度だった。
ザーときて間もなく地面がぬかるんであっという間に水が溜まりだした。このままだと何かに襲われた時に足を取られてしまうので木の上に避難した。
それから1刻ほどたったけど雨が止む気配がない。辺りはもう薄暗くなり今日中の帰還は難しい状況になってきた。
「寒いね。ネイちゃん」
「……うん。寒い」
今、木の上で身を寄せ合ってぶるぶる震えているところ。このまま朝を待って樹木伝いに帰るしかないかも。地面は水浸しで雑魚とはいえ魔獣もうろついている。
木の上なら安全かと言うとそうでもないんだけど、ほかに良い方法が思いつかない。冒険者としては新米なのです。こういう時どうしたらいいのか分らないんだよ。
「ネイちゃんどうしよっか」
「……どうしよう」
お互いにポンチョを被っているので濡れる心配はないんだけど、要は雨合羽を着ている状態で台風の中、雨曝しだと思ってもらえばいい。雨の冷たさは直に来るからね。
そんな時右手の方からものすごいプレッシャーが来た。あ、これはダメなヤツだと直ぐに分かる。
「や、ヤバいのがこっち来そう。逃げるよ、ネイちゃん」
「……クッ。こわい」
なりふり構っていられない。これはマジでダメな奴。もうかなり薄暗いけど一目散に逃げだす。でもなんか分からないのが一定の距離でず~と追いかけてくるみたい。
「うぇ~ん。引き剥がせないよ。ずっとついて来る」
「……こわいこわい。逃げよう。バーバリアンベア位怖い」
そうなんだよ。あれくらいプレッシャーを感じるんだよ。前方に岩山が見えて来た辺りでやっと諦めてくれたみたい。何とか逃げ切れたようです。うひぃ~疲れた。
「……あ、洞穴見つけた」
「え? どこどこ?」
そうです。私たちの前方のにぽっかりと空いた穴が見えたのです。ああいう所はたいてい何かが住み着いてるんだけど私たちの手に負える奴ならいいな~
最大限隠ぺいを発動して近づいてみると案の定いましたよ。ベアちゃんです。ただのベアです。ただのベアでも私達にはちょいと荷が重いんだけど如何やら傷ついているみたい。
「あれならなんとかなるかな?」
「……弓でやっちゃおう」
ネイちゃんが強気です。うん。分かるよ。洞穴を確保したいんだよね。休みたいんだよね。ご飯も食べたいんだよね。目がギラついてるよ。
勿論初撃は気闘法ですよ。そのまま飛漸で魔法は予備です。意外と簡単に斃せました。だいぶ弱ってたみたいです。良かった。
「う~ん。やっぱり獣が住み着いていたあとは臭いね」
「……うん」
と言うことで焼くことにします。消毒です。熊の寝床があるので可燃物には困りません。ファイヤーアローを次々とぶち込みます。
小一時間ほどぶち込んで消毒完了です。魔力には自信あるんだよ。師匠には全然敵わないけど、まだ発展途上だからね。
熱くなった地面を氷魔法で冷やして乾燥します。レジャーシート代わりの蝋引きシート(野外でご飯を食べる時に敷く)を敷いて早速ご飯の用意です。
「……熊の解体終わった~」
「お疲れ様~。こっちも準備できてるよ。お肉はワイルドファング使っちゃった」
「……うん。熊はこのあとでいい」
もう手持ちのパンがないのでお肉とスープ位しか出来ない。それもお肉のスープ。ハーブとか野草位は採取してたけどそんなにたくさんはないからね。
「「……」」
またです。またお肉が消えました。お肉に気を取られている内にスープまで消えました。何かいます。ちくしょう。こっちだってお腹空いて気が立っているのに!
「これは宣戦布告と捉えました」
「……食べ物の恨みは恐ろしいことを教えてあげる」
なんてことは無理なのでもう仕方ない。気配さえ掴めない様な見えざる敵を如何にかできるとは思えません。昼の経験から襲ってくるようなことはなく、ただただ食事をかすめ取っていく狡からい奴。
と言うことはその対策はたくさん作ってしまえです。丁度猪に熊とお肉はたくさんあります。食えるものなら食ってみろと言わんばかりに焼いてやりますとも。