102.錬金術師見習い7
いつも感想ありがとうございます。
やっとの思いで戻ってきました。2人とも当然鼻を摘まんでいるし涙目です。強烈な残り香です。どうしましょう。このままでは何も出来そうにありません。
先ほど倒したはずのモニュラは既に無く、その存在は体液が多少残っている位でした。結構な時間放置していたので森の掃除屋が何処かに持って行ったのかわかりませんが、魔石を回収し損ねたのは確かなようです。
「魔石取れなかった……。折角斃したのに~。でも魔石取り出せる気がしないけど、ああ、大きかったろうな~。色も違ったかもしれないのに勿体ないな~」
恐らくワイルドファングと同等かそれ以上のランクなので期待していました。まあ、魔石が大きくて色違いかどうかは判らないですが。この匂いのせいで高ランクの可能性もあるので。
「……勿体ない。まさか! もう一度斃す?」
「嫌だよもう。ネイちゃんがやりたいなら付き合うけど、あの匂いの中、魔石回収する根性は私には無いよ?」
「……ネイちゃんも無い」
結局私達にはまだ無理という結論に至った。匂い対策とか色々情報が足りていないからね。と言うことでサクッと繭だけ回収しよう。
2人でそれぞれ結界魔法を発動する。ここに来るまでに結構練習したからね。問題は鼻を摘まんでいることのみ。結果から言えば数回の試行で出来ました。鼻を摘まんでいるので発音が狂ってなかなか発動しなかったけどどうにかなった。
(やっとあいつら結界を発動したな。くそ~、結構離れてるのにキツイ! ほんと子供は無茶するよ~。トホホ……)
ネイちゃんが物理結界。私が魔法結界を発動して2人でかたまって移動を開始しました。恐る恐るヌルニュに近づいていきます。
もちろん2人で手をつないでいますよ。お互いを結界で保護しながらね。ヌルニュがどちら(物理か魔法攻撃か)分からないからね。どちらの攻撃をしてくるか分かった段階で結界を統一するつもりです。
そろりそろりと接近していきます。当然のように奴らの警戒区域に侵入したとたんギロリという感じで頭が一斉に私達を捉えます。
ひ~。気持ち悪い。ぞわぞわ~と背筋がします。私たちを注視しているようですが特に見つめる以外何もしてきません。これ幸いとどんどん進んでいきましょう。
私たちの移動に合わせて奴らの頭も私たちを追いかけます。丁度半円状に囲まれた時、状況が動きました。
奴らが一斉に糸を吹きかけてきたのです。
「わ~。綺麗~。まるで雪が降ってるみたいだね」
「……ほわ~。すごいの!」
結界に包まれている私たちに向かって無数の糸が降り注ぎ絡まり、層をなしていきます。最初は綺麗だったのですがだんだん不安になってきました。
結界の中にいるので丸く私達を覆っていくだけなので実害はありませんが、だんだん糸によって視界が遮られていきました。そして糸の繭に包まれ闇に閉ざされました。
「ま、まずいよ。ネイちゃん。閉じ込められた!」
「……ど、どうする?」
その時ガスっと音がして結界に衝撃が走りました。外から攻撃を受けているようです。
「うわっ! な、なに?」
「……ん。何かが結界に突き刺さってる。物理攻撃」
どうやら奴らが私たちを食べようとしているようです。敵の攻撃が物理攻撃と判明したので魔法結界は解きネイちゃんと交代出来るように待機して魔力を温存します。
「とりあえず暗いからライトの呪文でもどうかな?」
「……賛成」
繭の中が明るく照らし出されました。狭い空間ですが明るくなるとホッとしますね。その間も周り中からガスガスと何か突き刺さってきます。
「に、逃げよう」
「……同意」
私とネイちゃんは結界事動こうとしましたが動きません。ギシギシと揺れるだけです。
「うわ~ん。動かない。動かないよ~」
「……タ、タエ。助けて」
「師匠~、カンナさーん。助けてくださ~い。うわーん」
「……た、たすけて~」
それからは全力で結界の中で暴れまわりました。ギシギシ結界を揺り動かし何とか脱出を試みたのです。
◇ ◇ ◇
遠くから鼻を両手で押さえて見ていると繭になったあいつらが何やら暴れている様子だった。
あいつら自分が捕まってどうすんだよ。しゃーねーな~。いっちょ助けてやるか。くそ。この匂いの中、近づくのかよ。もう勘弁してくれよ。肉じゃ割に合わないよ。
アイツらが捕まっているところまで無造作に近づいて行き、鼻を押さえているので両手が塞がっているために蹴りを入れることにした。
◇ ◇ ◇
結界の中で暴れているとドンと急に音が鳴ったかと思うとゴロンゴロンと結界事転がりだしました。
「きゃ~。めが~、まわる~」
「……むぎゅ~」
しばらく転がって行ってようやく止まりました。恐る恐る結界を解除すると結界の周りを覆っていた糸がファサ~と降ってきました。
「お? おぉ~! きれいな糸収穫できた~」
「……できた~」
「私は考えました。ネイちゃん。最初はちょっと怖かったけどあのゴロンゴロンは面白かった!」
私は拳を握り締めながら、そう宣った。
「さらにきれいな糸の収穫もできる。一石二鳥!」
「……いっせきにちょう」
とまあ、やるよね? 子供だったらやっちゃうよね? というわけで物理結界を展開しながら奴らに向かって突撃しました。